第57話
「はぁ……はぁ……はぁ……」
自分の体内にあったありったけの魔力をすべて使い切った僕は地面に膝をつき、息を荒らげる。
魔力不足で気持ち悪いし、頭も霞んでいる。
「……ふぅむ。まさかここまでとは思わなかった。ここまでの傷を負ったのは初めてぞ」
僕の渾身の一撃を受けた、蟲毒之王の身を纏う外骨格に大きなヒビが入り、全身もボロボロ。
足の損壊もひどく、動きもかなりぎこちなくなっている。
僕の一撃は確かに蟲毒之王に深刻なダメージを与えたのだ。
だが、それだけである。
「は、ははは」
変わらず歩き、魔力を失ってまともに動けない
……元の世界じゃ魔力なんてなくても平気だったのに、体から魔力が無くなっただけでこんなにも僕の体が思うように動いてくれないとは。
どうやら僕の体はちゃんと異世界仕様に代わっていたようだ。
「見事であった」
僕の前に立った蟲毒之王は拳を拳を握り、僕の腹へとその拳を勢いよく振るう……今の僕に出来ることは何もなかった。
「がふっ!?」
蟲毒之王の拳をまともに喰らった僕はそのまま吹き飛んで壁へと激突する。
「むっ?」
「ごほっ、ごほっ!おげぇッ」
僕は地面へと転がって口から血を噴き出す。
視界が面白いように揺れ、全身の節々が信じられないほどに悲鳴を上げている。
体がバグったかのように震え、意識が今にも吹き飛びそうになる。
まさに限界……自分でもなんで今、生きているのかわからないほどに僕はギリギリの状態だった。
「驚いた……まさかこれでも死なぬとは。すまぬ。無理に苦しめるつもりはなかったのだが……」
「和人!!!和人ォッ!!!」
今にも何も聞こえなくなってしまいそうな僕の耳に蟲毒之王とララティーナの声が届く……あぁ、ララティーナ。
「……ぁ」
霞む僕の視界を上に持ち上げると、自分の方へとゆっくり近づいてくる蟲毒之王と地べたにはいつくばって僕の方へと手を伸ばしているララティーナのことが映る。
「……は、ははは」
言ったではないか。
アレシア様に……ララティーナを任せろと。
なのに、なんだ?この体たらくは……なんで僕は早々に諦めてへたり込んでいるんだ?
立て……立つのだ。
ここまで僕を助けてくれたアレシア様に……報いるのだ。
無能としてこの世界に来て……何も出来ずアレシア様に何も報いることが出来ずに死することなど許されるものか。
「……んっ、ァア」
僕は痛む体に鞭を打って体を動かし、剣を杖にして何とかその場に立ち上がる。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
僕は顔を持ち上げ、霞む視界の中に映る蟲毒之王を睨みつけた。
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