第56話

 どれだけ蠱毒之王と戦ったのか。

 剣を交え、拳を交え……どれだけやり合っただろうか?


「……くっ」

 

 最初の頃は僕が攻め立てていたはずだが、いつの間にか攻守は逆転し、僕が蠱毒之王に攻められ、防戦一方となってしまっていた。


「ふむ……戦闘の中でここまで成長を見せるとは余程才があると見える。まごうことなき天才か」

 

「……ッ」

 

 蠱毒之王の軽口に返す余裕すらなくなっている僕はただがむしゃらに剣を振って食らいつく。


「ふぅーッ」

 

 メイドさんに迫るほどの攻撃速度で攻撃してくる蠱毒之王の連打を全て回避し、受け流し、いなす。

 僕は逐一自分の動きを事細かに修正しながら戦っていく。


「惜しむらくは汝の魔力が殆ど無いということか」


「……ッ」

 

 連戦に次ぐ連戦。

 大量の魔物との戦闘をこなした後に今、蠱毒之王との戦いに挑んでいる僕は残りの魔力がもうほとんどなかった。

 ……このままじゃジリ貧だった。


「……くそったれめ」

 

 なんとか起死回生の一手を打とうと試行錯誤するが、蠱毒之王の連撃がそれを許さない。

 僕は距離を取ることすらも出来なかった。

 アレシア様に頼んで一つくらい魔道具を分けてもらえばよかった……ッ!つかなんで分けてもらわなかったんだ!?僕はァ!


「……ふふふ。賭けに出るとしようか!」

 

 僕は自分の魔力を放射し、自分のすべての魔力を使い切る覚悟での賭けに出る。


「ふむ。良いぞ……若人よ。その賭けに乗ってやろうではないか!」

 

 僕の言葉を聞き、蠱毒之王は好戦的な笑みを浮かべてその賭けに乗ると宣言する。

 あぁ……この短い時間で感じとった蠱毒之王の感じ的にこう宣言すれば乗ってくれると思ったよ!


「シィッ!」

 

 あえて蠱毒之王の拳を回避ではなく受けることで加速度を獲得してそのまま後方へと下がる。

 強引にではあるが、距離は取れた。


「……ラァッ!!!」

 

 後は賭けるだけである。

 僕の持つ魔道具でもなんでもないただの剣に自分の持つありったけの魔力を込めた僕はその剣を振り下ろす。

 使用者の全ての魔力が武器に込められた時にのみ起こる奇跡、力。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 武器が魔力の濁流に耐えきれなかったことによる魔力の開放が起こり、純粋な魔力の奔流が蠱毒之王の体へとぶつかった。

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