第55話

 ララティーナから距離を取り、蟲毒之王と向き合う僕は剣を構え、臨戦態勢に入る。

 

「ふぅむ……良い闘志。良く練り上げられた技術。実に素晴らしい。かつての剣聖を思い出す」

 

 目の前に立つ蟲毒之王は明確な知性でもって言葉を発し、色々と気になることを話している。

 一体目の前のこいつは何者なのか……一体どういう経緯でここに立ち、冒険者を迎え撃っているのだろうか?


「……お前が、蟲毒之王で間違いないか?」


「うむ。如何にも」

 

 疑問点ならばいくらでもある……しかし、今僕の目の前にいるのが蟲毒之王であるというのは確かだろう。

 目の前にいるのは僕の敵だ。

 強者を前にして余計なことを考えながら戦う余裕がこの僕にあるだろうか?

 いや、ない。


「……シッ!」

 

 何も考えず、ただ目の前の敵とだけぶつかる。

 僕がするべきことなどそれだけだ。

 

「……良い」

 

 一息で距離を詰め、剣を振るった僕の一振りを蟲毒之王は肌に剣を滑らせるようにして回避する。


「ふんッ!」


 ただの力技で強引に剣の進行方向を捻じ曲げた僕は本当にギリギリのところで回避した蟲毒之王を追って剣を振るう。


「……」

 

 バックステップで距離を取って僕の一刀を避けた蟲毒之王を追って僕も大地を蹴る。


「……ッ」

 

 蟲毒之王を狙って近づく僕を狙って突かれた蟲毒之王の腕を上半身を逸らすことで回避した僕は地面に手をつき、その代わりに足を上げる。

 蟲毒之王を狙って放った僕の蹴りは蟲毒之王へとクリーンヒットする。


「……かった」

 

 渾身の力を込めて蹴りつけたのだが、蟲毒之王の体はビクともしない。


「我が甲殻に土をつける」


「ぶち抜く」

 

 不動としか言いようのないような蟲毒之王を睨みつけながら僕は剣を振るう。

 僕の剣は避けられ、弾かれ、いなされる。

 学べ、学べ、学べ。

 蟲毒之王の回避方法を、身のこなし方を、足さばきを。

 僕の力を見抜くために蟲毒之王が僕に与えた時間を最大限使い、学びを得るのだ……でなければ勝てないだろう。

 僕は必死に剣を振るいながら、全力で蟲毒之王の動きから戦い方を学習していったのだった。

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