第36話

 完勝。

 このおっさんがどのくらい強いのかは知らないが、それでも戦闘とは無縁の生活を送ってきた僕が筋肉ムキムキで長年戦ってきたであろうおっさんに勝利したのはまぎれもない事実である。

 僕の一か月間は無駄ではなかったのだ。

 あの地獄のような一か月は確実に僕の力として残っているのだ。


「……嘘」


「おぉ……」


「マジで?」

 

 僕の勝利を前に周りで野次馬をしていた冒険者たちが歓声も何も上げず、ただただ驚きの声を上げる。


「それで受付嬢さん。これで冒険者になるために必要な実技試験の方はクリアということでよろしいですか?筆記試験の方もあるのでしたら、行うのですが……」

 

 筆記試験があった場合は結構致命的だ。

 僕の知識はこれ以上ないほどにとがっているし。


「えっ……あ、はい。大丈夫です」

 

 冒険者に紛れて観戦していた受付嬢さんの元に向かい、尋ねた僕の疑問の声に受付嬢さんが頷く。


「それでは僕は今から冒険者ということでよろしいでしょうか?」


「あっ。少々お待ちください。これから手続きを致しますので……あっ、上の方に一緒に来てもらえますか?」


「承知いたしました」

 

 僕は受付嬢さんの言葉に頷き、彼女の後についていった。

 

 ■■■■■

 

 地下から上の方へと戻ってきてからしばらく。

 

「手続きの方が終了いたしました」

 

 受付嬢さんの手続きの方が終わり、僕は晴れて冒険者になることが出来た。


「こちらが冒険者であることを示し、身分証にも使える冒険者カードとなります」


「おぉー」

 

 僕は鉄で作られた一枚のカードをもらい、テンションを大きく上げる。

 知らなかったけど冒険者カードは身分証に成り得るのか……これで僕はようやく身分証を手に入れ、この世界で一人。

 放逐されても最低限の身分を証明する術を手に出来たことになる……どこまでこの冒険者カードが有効かはわからないけど。


「冒険者についての説明は必要でしょうか?」


「必要です。ぜひお願いします」

 

 僕は受付嬢さんの言葉に頷き、冒険者についての説明を求めたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る