第35話

 ここまでの移動で僕の強さはおっさんにも理解出来ただろう。

 だが、見た目が弱そうな僕にここまで煽られ、引けるようほどこのおっさんのプライドと意地は安くないだろう。


「良いぜ……そのままぶっ殺してやんぞ!ガキィ!二度とママのおっぱいを飲めないようにしてやる」


「ふふふ。僕は優しいのでママのおっぱいにしゃぶりつけるくらいの傷に抑えてあげますよ」


「……テメェ」


「はっはっは!良いぞ!ガキィ!」


「煽り性能たけぇな!おい!」


「煽りで負けてんぞ!ガンズ!」


「イキったガキにちゃんと現実を教えてやれよ?ガンズ?」

 

 そして、そんな応酬を周りの冒険者たちは撒くし立てる。


「スタートはどうします?……あっ。合図を他の冒険者にお願いしましょうか」


「よっしゃ!スタートだ!」

 

 僕の言葉の返答をおっさんが告げるよりも前に冒険者がスタートを口にし。


「っしゃぁ!」


 それを聞いたおっさんが動き出す。


「ほい」

 

 僕はそんなおっさんの腹に勢いよく中段蹴りを叩き込んで動きを強引に止める。


「ぐっ」


「やっぱり酔っぱらいはダメですね」

 

 そして、酒を飲んでいるせいかやけに散漫しているおっさんの意識の隙をつき、一瞬で移動。

 背後を取り、そのままおっさんの背中に己の背中を預けた僕は口を開く。


「テメェッ!!!」

 

 大慌てで後ろへと振り返るおっさんの勢いに合わせて僕も移動し、後ろを振り返ったおっさんの背後を再び取った僕は自分の腕を伸ばす。


「うぉ!?」

 

 急な移動で踏ん張りが弱くなっている足を掴んだ僕はそのままおっさんを思いっきり持ち上げて跳躍。


「せいッ!」

 

 そして、勢いよくおっさんを地面に叩きつける。

 

「ごふっ!?」

 

 おっさんは手に持った大剣を離し、勢いよく地面にぶつかって数回バウンドする。


「はい、終わりです」

 

 一度宙を舞い、落ちてくるおっさんの大剣を左手でキャッチし、右手に持った木刀を地面に倒れ伏すおっさんの首に突き付けた僕は勝利宣言を口にするのだった。


「まだおわtt」


「ん?」

 

 その勝利宣言を聞いてもなお食い下がろうとするおっさんの顔の真横に左手で持っ

た大剣を振り下ろす。

 僕の強い力で叩きつけられた大剣は砂場の砂を大きく巻き上げ、おっさんの顔に降り注ぐ。


「武器を失っているのにどうするつもりですか?負け犬が吠えることほどダサいものはないですよ?まぁ、イキって絡んだ小さな少年にフルボッコにされている時点で死ぬほどダサいですが」

 

 僕は最後の最後まで全力で煽り続けたのだった。

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