第23話

 本来であれば休暇として向かったはずの森で激闘を繰り広げた僕。


「どうやらアレシア様と仲良くなれたようですね」


 そして、自室で燃え尽きてベッドに寝っ転がっている僕に話しかけてくるメイドさん……なんでこの人はさも当然のように僕の部屋にいるのだろうか?


「えぇ……なんとか」

 

 僕はメイドさんの言葉に頷く。

 タイラントベアとの邂逅は最悪のものであったが、アレシア様と友好的な関係を築けたことは僕にとってプラスであった。


「それで?ラインハルト家の執事になってくださる決心はつきましたか?」

 

 僕は以前、メイドさんにラインハルト家に仕える執事にならないかと誘われたことがあるのだ。

 誘われた当時は当主であるアレシア様と良い関係を築ける気がまったくしなかったので丁重にお断りさせてもらったのだが、今なら違う。


「はい。ぜひここで働かせてください」


「ふふ。良い返事が聞けました。それではこれをどうぞ」

 

 どこから取り出したのか。

 さっきまで持っていなかった燕尾服をさも当たり前のように僕の方へと渡してくるメイドさん……こんな経験も一度や二度じゃない。

 メイドさんが今更何もないところから突然燕尾服を取り出しても驚かない。

 僕は差し出された燕尾服を丁重に受け取る。


「へぇ。ありがとうございます。早速着てみますね」

 

 燕尾服を受け取った僕は早速今着ている服を脱いで燕尾服へと裾を通す。

 一か月間毎日のように続けていた模擬戦の中で僕の服がぐちゃぐちゃになることも、破損して大事なところが丸見えになるような経験も一度や二度じゃない。

 メイドさんの前で服を着替えることに僕は抵抗感を抱かなくなっていた。


「入るよ。和人」

 

 だが、この軽率ないつもの癖が最悪の結果をもたらしてしまった。


「「……あっ」」


「あら?」

 

 扉を開けて部屋の中へと入ってきたアレシア様とズボンを脱いでパンツ丸出しの僕の視線が合う。


「す、すみません……」


 僕は謝罪の言葉を口にし、いそいそとズボンを戻す。


「……」

 

 だが、アレシア様はそんな僕から視線を隣にいるメイドさんの方へと向け、口を開く。


「なんでお前が和人の部屋で彼の着替えを見ているの?」


「あらあら。嫉妬でございましょうか?」


「良いから答えろ」

 

 目からハイライトをなくし、メイドさんに冷たい言葉で問い詰めるアレシア様。


≪スキル『運命に弄ばれる者』の試練をクリアしました。スキル『殺意感知』を獲得しました。力・防御・俊敏性のパロメーターに+1の補正を加えました≫


 ……遅くね?

 遅れて響くスキルの声……そして新しく獲得した殺意感知がビンビンに発動するほどの殺意を纏ったアレシア様に僕は頬を引き攣らせた。

 

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