第22話
アレシア・ラインハルトについて行ってしばらく歩いた後。
「ここよ」
鬱蒼と生い茂っていた木々や草が突然無くなり、明るい陽の光が僕の視界を焼く。
「まぶしっ」
太陽の光で一瞬だけ潰された僕の視界が再び機能を取り戻した時、僕の視界に入ったのはあたり一面に広がる黄色い花畑であった。
花の甘い匂いが僕の鼻腔をくすぐり、風が一つ吹き、揺れ動いた黄色い花々から宙に舞う黄色い花びらの雪景色は実に美しいものがあった。
「おぉ……」
僕は地平線の果てまで続く黄色い花畑に僕は感嘆の声を上げる。
「綺麗でしょ?ここ……ここに来るまでが結構大変で観光地になったりはしないんだけど、この世界でも有数の花畑だと思うわ」
「そうですね……こんなに凄い花畑は生まれて初めて見ます」
別に僕はこれまで花畑に強い魅力を感じたことはなかったが、これを見ると価値観が百八十度変わりそうだ。
「ふふふ。そうでしょう?」
僕の感動している様子を見て満足そうに頷くアレシア・ラインハルトが自分の足元に生えていた一輪の黄色い花を摘み取り、僕の方へと向けてくる。
「この花の名前はリリー。花言葉は『歓迎』。一か月も経っちゃったけど……和人が私の住む世界に来たことを、私が治める領地に来たことを私は心から歓迎するわ。ここに来てくれてありがとう」
僕は笑みを浮かべ、こちらへと黄色い花を渡してくれるアレシア・ラインハルトを呆然と眺める。
「……」
アレシア・ラインハルトは悪役令嬢である。
主人公を言葉で、暴力でいじめ、最終的には断罪されてしまうような悪役令嬢である。
そんな悪役令嬢であるアレシア・ラインハルトと今僕の前で輝かしい笑顔を浮かべ、慈愛の心を向けてくれているアレシア・ラインハルトの姿が一致しない。
僕はゲームでのアレシア・ラインハルトと今、目の前にいるアレシア・ラインハルトのどちらを信じれば良いのだろうか?
「ありがとうございます……アレシア様」
愚門である。
僕の知識は所詮ゲームのものであり、ここは現実。
今、目の前の真実を受け止めなくて一体何を信じるというのか。
「これからもよろしくお願いします」
誓おう。
たとえ、この先アレシア様に何があろうとも捨てられない限り一生僕を受け入れてくれたこの人と共にあることを。
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