第17話
鳥が大きな鳴き声を上げながらどこかへと飛び去り、小動物の気配がどんどんと近くから遠ざかっていく中。
強大な魔物の気配が僕たちの方へとどんどんと近づき、草をかけ分ける音が大きくなっていく。
「……来る」
アレシアの小さな声。
「ガァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
「退避ッ!」
「了解です!」
大きな咆哮と共に僕たちの近くにあった巨大な木をいともたやすく破壊した巨大な剛腕がさっきまで僕たちのいた場所をえぐり取って行く。
「……ッ」
「ぐるるるるるるるる」
僕たちの前に姿を現したのはあまりにも巨大すぎるクマ。
瞳は禍々しい赤い光を放ち、口元から大量の涎を垂らし、僕たちへと思いっきり殺気をぶつけている。
「……タイラントベア」
アレシア・ラインハルトが目の前のクマの名前だと思われる単語を口にする。
「これは、無理……なんでこんなところにこんな化け物が。逃げて、あのメイドを呼んできて」
試練。
僕のスキルは確かにそう言ったのだ。
試練なのであれば死力を尽くせばなんとかクリア出来るような難易度なのであろう。
これは僕の試練であり、そしてアレシア・ラインハルトと協力して挑む試練である。
僕がいなくなっても、アレシア・ラインハルトがいなくなっても……どちらかが欠けてもダメだ。
「主人を見捨てて逃げ出す執事がどこにいますか?」
僕は腰につけていた剣を抜き、構える……僕の公式的な立場はラインハルト公爵家に仕える執事である。
ここで逃げ出すわけにはいかないだろう。色々と。
「……あなたのような馬鹿にはこれ以上何を言っても無駄よね。お願い。死なないで」
「当然です。二人であの化け物を倒すと致しましょう!」
僕は初めて相手にする殺意バリバリの危険な動物を前に恐怖し、泣き出しそうな心を押し込み、気丈に声を上げる。
……怖気ずくな。
ここでどんな思惑かはわからないけど、どうしようもない無能である僕を受け入れてくれたアレシア・ラインハルトを失えば僕は死ぬ可能性が高い。
引いたら死ぬ。
だから……前に出ろ、牧ケ谷和人!
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