第8話
アレシア・ラインハルトがその美しい声で僕の名前を呼ぶ。
「……」
「……」
それからも時が過ぎて流れ、沈黙の時間が続き続ける。
「……」
長い沈黙の中で周りは変化しており、騎士たちは自分たちの乗っている馬車を片付け、乗っていた馬車はどこかへと走り去り、僕の隣にはいつの間にかメイド服を着た女性が立っている。
「な、なんでしょうか……?」
僕は沈黙を耐えかねて再び疑問の言葉を口にする。
「……今日より」
それを受け、アレシア・ラインハルトが再び口を開く。
「ここがお前の家だ。好きにくつろげ。細かなことはお前の隣にいるメイドがこなす」
「よろしくお願いいたします。和人様」
僕が視線をちらりと隣にいるメイドさんへと向けるとメイドさんは僕へと頭を下げ、口を開く。
「ではな」
アレシア・ラインハルトはそれだけを言うと僕に背を向け、足早に立ち去ってしまう。
ちょ!?ま、待って!?
なんかめちゃくちゃ早いんですけどぉ!?歩きながら短距離走してんのかってくらい早いんだけど!?
「え、えっと……」
この場に残された僕は困惑しながら、メイドさんの方へと視線を向ける。
好きにくつろげと言われてもという感じである。
「和人様。あれでもアレシア様は和人様のことを思いやっておいでなのです。不器用なあの子を嫌いにならないでやってください。アレシア様も色々と複雑で……コミュニケーション障害なのですよ」
「は、はい……」
主人公を一切遠慮なく虐める悪役令嬢が何を言っているのだろうか……?
「あぁ。申し遅れました。私はこのラインハルト家に長年仕えるメイド、アレティアにございます。どうかよろしくお願いいたします」
……長年?
僕は未だ20歳前半に見えるアレティアさんを見て心の中で首をかしげる。
子供のころから仕えているのかな?
「よ、よろしくお願いいたします」
「私に敬語は不必要ですよ。それでは、屋敷の方に向かいましょうか。長旅に疲れておいででしょう。本日はご自身の部屋でゆっくりなさっていてください。明日からは色々と教えること、やらなくてはいけないことがあるので英気を養っていてください、馬車の中で教えてもらえるはずだったこの世界についての説明、戦い方の説明を受けていないでしょう?」
「あっ。はい。そうですね」
「えぇ、でしょうね。和人様の異世界生活は明日より本格的に始まります。それではまいりましょうか」
「はい」
僕は屋敷に向かって歩き出したアレティアさんのあとをついていった。
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