第7話

 重苦しい沈黙を維持し続けた馬車が止まる。

 僕の座る位置から見える窓から外を見てみればまだ太陽の光がお昼に近い位置で輝いていることがなんとなく確認することが出来る。

 ここ三日間。

 馬車が止まるのは朝の食事の時間と夜の食事と宿泊のために止まる夕方の時間の二回のみ。

 その二回ともお昼の時間とは言えない時間帯であった。


「到着いたしました。ラインハルト公爵邸へと」

 

 僕とアレシア・ラインハルトの乗る馬車の扉が開かれ、御者が口を開く。

 どうやら王都からラインハルト公爵家が暮らしている邸宅へとついたようだった。

 ……この三日間。

 ほとんど変わり映えもない狭い馬車の中で一言もしゃべらず、アレシア・ラインハルトと向かいだけの地獄のような時間だけからは解放されるようだった。


「ご苦労」

 

 アレシア・ラインハルトは一言、御者に続けると僕のことなんて置いて、一人でさっさと馬車から降りてどこかへ歩き去ってしまう。


「し、失礼します……」

 

 当たり前のようにおいて行かれた僕はどうすればわからず、困惑するも一先ずアレシア・ラインハルトを追いかけるべく馬車の外へと出る。


「足元にご気をつけてください」


「わざわざありがとうございます」

 

 僕は心配してくれる御者に笑顔を向けた後、視線をアレシア・ラインハルトの方へと走らせる。

 僕を置いて先に行ったはずのアレシア・ラインハルトは両腕を組み、立ち止まっている。

 

「……」

 

 僕が降り立った大きく、様々な花が咲き乱れる庭の奥にある宮殿のような屋敷を背後に立ち止まり、前方の屋敷ではなく後方の僕の方へと視線を向けているアレシア・ラインハルトは無言のまま僕のことを見続ける。


「……」

 

 僕は何の反応も取ることが出来ず、ただただ呆然とその場に立ち尽くし続ける。

 異世界へとやってきた僕には本当に何もない……そんな状況下で自分から何とかしようと動きにいけるほど僕の心臓は強くなかった。


「牧ケ谷和人」


「は、はい。なんでしょう」

 

 長い長い沈黙の後、アレシア・ラインハルトは実にきれいな声で僕のフルネームを呼んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る