第5話

 別室へと移動した僕たちは一人一人水晶のようなものに手を触れ、自分のスキルを確認していっていた。


「……」

 

 僕たちがスキルを確認している一室には数えきれないほどの豪華な衣装を身に纏った貴族と思われる男女が大量におり、全員が僕たちの様子をじっと眺めているため、妙な緊張感がある。


「スキル……『防御無視』。相手がどんなに防御が固い相手でも……いや、敵を簡単に殺すことが出来るこのスキルは凄まじい力を発揮してくれそうですね。霊峰春樹様を保護してくださる貴族家はいますでしょうか?」


 ルルーシアの言葉に幾つかの男女が反応し、パラパラと手が上がっていく。


「それでは春樹様はレイシスト侯爵家にお願いいたしましょう」

 

 クラスメートたちは自分のスキルを知ると同時に周りの貴族たちにも自分のスキルが知らされ、それを聞いた貴族たちがそのクラスメートを引き取りたいと思った場合は手を上げる。

 そして、クラスメートたちはその幾つも上がった手の中で最も貴族としての格式が高い家へ身を寄せることになるのだ。

 

 なんというか……自分たちがオークションの商品になったみたいであまり良い気分ではない。

 僕がそんな感想を抱いている間にもどんどん作業は進んでいき、残すところ僕だけという状況になった。


「それでは最後に牧ケ谷和人様お願いします」


「は、はい……」

 

 僕は謎の緊張感を抱えながらルルーシアの言葉に頷き、水晶の前に立つ。


「それではそちらの水晶へとお手をかざしてください」


「わかりました」

 

 僕はルルーシアの言葉に頷き、水晶へと手をかざす。


「……は?」

 

 水晶に移った僕では読むことの出来ない謎の文字。

 それを見たルルーシアが驚愕によって固まる。

 何故だろうか。ものすごく嫌な予感がする。


「……す、スキルなし?」


 そして、その嫌な予感は見事的中してしまう。


「えっ?そ、それはどういうことでしょうか?」


「……え?い、いや、そんなはずは……スキルがないだなんてこと、あるわけが……」


 僕の疑問など聞こえていないかのように困惑したルルーシアがぶつぶつと独り言をつぶやく。


「いえ……これを考えるのは私の仕事ではないですね。牧ケ谷和人様にはスキルがございません。牧ケ谷和人様を保護してくださる方はいらっしゃいますか?」


「……ッ!?」

 

 ちょっと待ってくれ!?そのまま何のフォローも入らずそのまま行くのか!?

 スキルなしとか引き取ってくれる貴族家なんていないだろ!?どう考えても役立たずじゃん!


「「「……」」」

 

 案の定誰も手を上げない……こ、これ大丈夫なんだよな?

 さっきルルーシアは異世界へと召喚したわびとして出来るだけの願いは叶えると言っていたし……ちゃんと無能でも丁重に扱ってくれる、よな?


「……」

 

 だが、僕が持っている原作知識としてのルルーシアの性格。

 そして、目の前にいるルルーシアが僕に向けてきている視線の色……ゴミを見るような視線を見るに期待出来なさそう感がする。

 そんな現実に僕は目の前が真っ暗になり、自分の足元が崩れていくような幻想を感じる。


「良いわ。その子はうちが引き取る……別に私の家も権利を持っているわよね?」

 

 誰も手を上げていないような状況の中、一人の女の子の声が響く。

 その声を聞いて僕は驚愕し、手を挙げた女の子の方へと視線を向ける。

 ……アレシア・ラインハルト。


「……アレシア・ラインハルト」


 奇しくも手を挙げた人物を見て僕の内心の声と隣にいるルルーシアの言葉が重なる。

 アレシア・ラインハルト。

 乙女ゲー『リリスト』において主人公を目の敵にする悪役令嬢として登場し、最終的には処刑されてしまう性悪な女性が僕の身柄を引き取ると宣言したのだった。

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