第31話 日本妖怪大図鑑①

【あ】


アーサー王の幽霊

イギリスで語られる怪異。イングランド南西部の都市、ヨーヴィルの北東、サウス・カドペリーにあるカドペリー城は『アーサー王物語』に登場するアーサー王に王都、キャメロットであったと考えられている。

今でも夏至の前後にはアーダー王のゴーストが白馬に跨り、騎士団の先頭に現れるとされる。その腰には伝説の剣エクスカリバーを帯び、頭には龍を象った頂飾を付けた兜を被り、体には鎖帷子の上に銀色の鎧を纏っているという。背後には黄金と赤の龍を図象化した軍旗を掲げた二人の旗手と、カタクラフィと呼ばれる軽騎兵の精鋭部隊が続くという。

石原孝哉著『幽霊のいる英国史』にある。アーサー王は五世紀後半から六世紀始めのブリトン人の君主と考えられており、中世の騎士道物語、通称『アーサー王物語』では魔法の剣、エクスカリバーを武器とし、フランスやイタリアを支配する巨大な王国を築いた後、妻の不貞や部下である円卓の騎士の裏切り、内乱によって悲劇的な最期を辿る人物として描かれる。


アッシュ屋敷の幽霊

イギリスに現れた怪異。一九三四年、サセックスにあるアッシュ屋敷という屋敷に現れた幽霊で、緑のうわっぱりを着て、泥だらけの半ズボンをはき、ゲートルをつけ、片方の緑を垂らした帽子を被り、耳にハンカチを巻いている老け気味の男という容姿をしている。またその顔は真っ赤で、目は悪意に満ちており、その首の周りはぐるりと切られていたという。

 幽霊はこの屋敷に引っ越してきたキール夫妻の前に何度も現れたため、悪魔祓いが行われることとなったが、その際に行われた交霊会では幽霊は霊媒の体を通して自分をチャールズ・エドワードと名乗り、ハンティントン伯爵という人物に土地を奪われ、旧友のバッキンガムに裏切られた、という話をした。

また幽霊は、この屋敷ん越してきた夫婦は互いに相手を困らせるために自分の存在を必要としているため、本心から自分に去ってほしいとは思っていないと宣言した。

 事件の解決のために招かれていた心霊研究家ナンドア・フォドーがこれを確かめると、夫婦はたしかにその傾向があると認めた。それから幽霊は現れなくなったため、フォドーはこの幽霊はキール氏の潜在意識が生み出したもので、交霊会に出現した幽霊はこの潜在意識に霊媒が影響され、まるで、本物の幽霊が霊媒に憑依したかのような現象が発生したものと考えた。しかしこの幽霊はキール夫妻以外の使用人などにも目撃されていた。


アニー

イギリスに伝わる怪異。エディンバラのメアリー・キングス・ロースには、アニーという少女の霊が棲み着いていると考えられている。この場所は一七世紀にペストが大流行した際、遺体を残したまま封鎖されたという。アニーもペストの犠牲者のひとりで、この場所で家族に置き去りにされて死んだ少女なのだそうだ。

 一九九二年、日本人の霊能者がこのアニーと出会って以来、アニーを求めて生前の彼女の部屋だった場所を訪れる人々が増えたという。

 ロバート・グレンビル著『絶対に出る世界の幽霊屋敷』にある。訳者の片山美佳子氏によれば、日本人の霊能者とは宜保愛子とみられるという。宜保愛子は一九六◯年代から二◯◯年代にかけてテレビで活躍した霊能者で、日本の心霊ブームにも大きな影響を与えた。

アフリマン

主にヨーロッパで語られている怪異。悪魔の一種で、元はゾロアスター教におけるアンラ・マンユ(アーリマン)のことであるが、一九世紀から二◯世紀にかけての哲学者、人智学者であるルドルフ・シュタイナーによってルシファーと対立するデーモンとして語られた。嘘の王、闇の支配者、亡霊じみた地上の君主と形容され、人間に霊的なものではなく、物質世界とそれに基づく肉体的欲望のみが最も重要であるという嘘を信じ込ませることが目的とされる。またシュタイナーは、このアフリマンはメフィスト・フェレスと同様の存在であるとも語っている。

フレッド・ゲティングス著『悪魔の辞典』にある。同書によれば、シュタイナーが提唱するアフリマンの宿敵、ルシファーはゾロアスター教におけるアンラ・マンユの対になる存在、アフラ・マズダと同一のものであるという。

雨の女

ウクライナにある絵画に纒わる怪異。その絵画は現在同国ビニツァ州ビニツァのある店に飾られているが、それまでに二人の人間に購入され、多くの怪現象を引き起こしたという。絵の外見は雨の中、黒い帽子に黒い服を着た女性が目を伏せているというもので、スヴェトラーナ・トーラスという画家によって描かれた絵画。彼女はこの絵画を描く六ヶ月前から何者かに見られているような感覚があったが、ある日、突然この絵の構想が浮かび、すぐに下描きを終え、約一ヶ月で完成させた。「雨の女」と名付けられたこの絵は初めある女性実業家に買われたが、二週間後に返品された。女性実業家によれば、この絵を家に置くようになってから誰かが隣りにいるような感覚が常に付きまとったという。次に若い男がこの絵を買ったが、絵の女性が毎晩自分の周りをあるき回るように感じ始め、やはり絵を返品した。

 3人目の購入者もやはり男性であり、最初は絵の中の女性に好意的であったが、絵の中の女性に女性の目を見てから頭痛や漠然とした不安が付きまとい始め、どこにいても何者かが現れるような感覚に陥った。そしてやはり雨の女はスヴェトラーナの元に返品されたという。

 初出は不明だが、二◯一一年七月にはインターネットでこの怪異が語られているのが見える。


アロペクス・ストゥルトゥス

ロシアで発見されたという不思議な生き物。一九四◯年、シベリアのタイガ地域で捕獲されたというホッキョクギツネが特異な進化を遂げた動物とされる。その姿はキツネの体にウミガメの頭が生えている、というようなもので、この頭部は鉛を含む甲で覆われているのだという。またキツネとは違い草食で、かなり臆病な性格をしている。外敵が近づくと頭を地面に突っ込み、体を垂直に立てて灌木に擬態する。しかしその肉が大変美味であるために、人間を含む捕食者は動かなくなったアロペクス・ストゥルトゥスを捕まえて食べてしまうという。

ジョアン・フォンクベルク及びペレ・フォルミゲーラ著『秘密の動物誌』にある。

同書は謎の失踪を遂げた動物学者、ペーター・アーマイゼンハウフェン博士の資料を元に記されたという体裁の書籍で、通常ではありえない多数の動物が写真や解剖図、観察日記などとともに掲載されている。

アンドリュー・クロスのダニ


イギリスで生まれた怪異。アンドリュー・クロスという人物によって人工的に作られたという生命体で、ダニの一種だと考えられている。

 一八三六年、クロスは炭酸カリの珪酸塩と塩酸を混ぜ、その中にイタリアのヴェスビオス火山から採れた握り拳ほどの大きさの元に酸化鉄鉱石を入れ、溶液に電流を流して珪土から人工水晶を作る実験をしていた。

その際、偶然に何か白く小さな粒のようなものが生じ、次第にそこから触手のようなものが生えてきて、針で突くと動いた。



生き埋めのローザ

イタリアで語られた怪異。一九五◯年、ジュゼッペ・ストッポリーニという心理学教授が大学で講義を行った際、マリア・ポッカという女性を紹介した。

しかしこの女性は突然昏睡状態になり、何人かの死者の声で話をした後、ローザ・マニケルリという女性の声で話し始めた。

 それによれば、このローザという女性は昏睡状態のまま死亡したと判断され、カステル=ライモンドの墓地に生き埋めにされ、そこで死んだというのだ。

 そこでストッポリーニ教授がローザについて調べると、彼女はたしかに実在した人物で、一九三九年に埋葬されていることがわかった。そのため、人を集めてこの墓を掘り起こしたところ、棺の中には必死で蓋を開けようともがいた後に死亡したと思しきローザの人骨があった。蓋の内側には、彼女がどうにかして蓋を開けようと爪で何度も引っ掻いた後が残っていたという。

 N・ブランデル他著『世界怪奇実話集』にある。土葬文化のある地域では、このように生きた状態で死んだと判断され、埋葬された人間は数多くおり、棺桶の中で息を吹き返した例も多かった。









ヴァッサーガイスター

 ドイツに伝えられる怪異。水の精霊を表し、地方や時代により様々な姿がある。この精霊たちが持つ特徴として例を挙げると、半人半魚である、緑色の肌を持つ、髪に藻が生えており、歯は苔のようである。

 目は魚眼で、口は蛙のようである。手には水かきがあり、泳ぎが得意で、三歳から一二歳くらいまでの子どものようだ、といったものがある。また女性がこの水の精霊に見つめられると病気になるとされることもあるようだ。


 また水の精霊も人間と同じように家庭生活を営み、中には人間と婚姻を結ぼうとするものもいるという。男の精霊の場合は人間の娘を誘惑したり、水の中に引き込んで家庭を作り、子どもを一定数生むと地上に帰すなどと伝わる。








ウィシュトの猟犬

イギリスに現れた怪異。イングランドのデヴォンシャーにあるグートムア周辺とウィストマンズ・ウッズに出没する犬の怪異。頭がなく、黒く光っており、狩りの角笛と棒を持った主人、オーディンとともにさまようとされる。この猟犬はキリスト教の洗礼を受けなかった子どもたちを追いかけるという。また別の話では、この猟犬たちは洗礼を受けずに死んでしまった子どもたちの魂で、

自分たちの親を探しているともされる。この猟犬に遭遇した人間はその後、少なくとも一週間以内に死んでしまうという。

 もし遭遇した場合には、手足を組み、頭を下にして伏せ、彼らが去るまで神に祈り続けなければならない。

 ウィシュトの猟犬は日曜日の夜遅くに最も頻繁に出現し、火と煙を吐きながら荒野を駆けるという。

ローズマリ・E・グィリー著『妖怪と精霊の事典』にある。同書によれば、猟犬を率いるのはオーディンではなく悪魔やフランシス・ドレイクの場合もあるという。オーディンは北欧神話に登場する主神で、こういったワイルドハントの伝承にてよく語られる。フランシス・ドレイクもワイルドハントの伝承に現れるほか、彼の太鼓が怪異を起こした話も残る。






ウィリアム・コーダーの頭蓋骨

イギリスに現れたという怪異。医師のジョン・キルナーは頭蓋骨の収集を趣味としていたが、中でも夢中になっていたのは、自分の所有物ではなく、勤務先の病院に標本として置かれたある頭蓋骨だった。

 この頭蓋骨はウィリアム・コーダーという殺人犯のもので、我慢できなくなったキルナーはこの頭蓋骨を盗んで自宅に置いた。すると家の中をコーダーの悪霊がうろつき始め、息遣いやすすり泣きの声が聞こえるようになった。最後には白い腕が現れ、頭蓋骨を収めたショートケースを叩き割った。

 恐ろしくなったキルナーは頭蓋骨を友人に譲ったが、その友人も同じように怪異に遭い、たならなくなってキリスト教式に埋葬した。それ以来、怪異は止んだという。

N・ブランデル他著『世界怪奇実話集』にある。

 ウィリアム・コーダーは十九世紀に実在した殺人犯で、マリア・マーティンという婚約者を殺害したことで知られる。この事件は殺害現場や遺体が埋められた場所が赤い屋根の納屋であったため、「赤い納屋殺人事件」とも呼ばれる。

 コーダーはマリアを妊娠させ、結婚を迫られたことでしぶしぶ承諾するが、二人の子どもは出産後すぐに死んでしまう。そしてなお結婚を迫るマリアの殺害を決意したコーダーは、赤い納屋二人だけの結婚式を挙げようとしマリアを連れて行き、そこで殺害して床下に死体を埋めた。

マリアの両親にはロンドンで挙式を挙げると騙し、逃げたコーダーだったが、マリアの母親は夢で赤い納屋の床下に娘が埋められていると知らされて実際に調べてみると、本当に死体が見つかった。

ウィリアム・テリスの幽霊


イギリスで語られる怪異。ロンドンのコヴェント・ガーデン駅には、十九世紀の人気俳優、ウィリアム・テリスの霊が現れることで知られている。

 テリスはアデルフィ劇場という劇場で俳優兼舞台監督を務めていたが、一八九七年に俳優仲間に刺殺され、この世を去った。

その死の直前、「必ずここに戻ってくるよ」という言葉を残したともいわれている。

その遺言通り、アデルフィ劇場では誰もいない廊下で足音がしたり、舞台上にテリスと思しき影が現れるようになった。

また、テリスが生前よく利用していたコヴェント・ガーデン駅では何度もテリスの霊が目撃されるようになった。初めは誰の幽霊なのか判然としなかったが、目撃者である駅員の一人がアデルフィ劇場でテリスの写真を見たところ、幽霊はテリスそっくりの姿をしていることが分かったという。平井杏子著『ゴーストを訊ねるロンドンの旅』にある。二一世紀になってもこの幽霊は出現するらしく、イギリスでは何度かテレビなどでテリスの幽霊に関する特集が組まれている。

 運命を予言する女

ロシアで語られる怪異。ある女に子どもが生まれ、その子が三ヶ月の時、母親が眠っていると、何者かが窓をトントンと叩いた。そこで窓を開けてみると、白い服を着て白いプラトーク(ロシアのウールストール)を被った女が「水をください」と言う。そこで水を飲ませてやると、今度は「お前の息子を私によこしなさい」と言う。

母親はそれを断ったが、女は「一八年後にお前の息子は自分から私のところにやってくる」と予言した。

 はたしてその言葉通り、子どもは十八歳で死んでしまったという。



 ヴォジャノイ

ロシアで語られる怪異。水中に棲み着いている魔物と考えられており、水中にあるものすべてを支配下に置くことができるという。

人間の前に現れるときはおじいさんの姿をしていることが多いが、その全身は藻に覆われている。また体はぶよぶよしていて締まりがなく、頭部に毛はない。体は大きく、人間の倍以上はあるとされる。

 人間を水中に引きずり込んで殺す恐ろしい存在としても伝えられており、ヴォジャノイに連れ去られた人間は決して見つからない。ロシアではこの犠牲を防ぐために川の水が溶けてヴォジャノイが目を覚ます前に川に小麦粉やタバコを投じ、ヴォジャノイに捧げ物をすることで家族の安寧を願う。また時には馬をも水中に引き込んでしまう。

斎藤君子著『ロシアの妖怪たち』にある。

同書によれば、変幻自在に姿を変えられるヴォジャノイもおり、木に化けて川を下ったという。月の満ち欠けによって年齢が変わり、月が満ちると若者に、月が欠けるとおじいさんになるという話もある。そのためかヴォジャノイは決して死ぬことはないとされる。


 海のお化け

ドイツで語られる怪異。ドイツの海には灰色のマントを纏い、大きな帽子を被り、灯火を持った幽霊が出ると考えられている。この海のお化けはまるで船乗りたちに道案内をするように灯火を振るが、これを信じてついていくと必ず惨めな最期を遂げる。

 この幽霊は元々封建家臣であったが、悪魔に魂を売り、嵐の海に灯火を振って舟を誘導し、沈没させて岸に流れ着いた財産を奪って富をなした。そのため、この男は死後永遠に砂州の上で過ごすことになったのだという。

H・シュライバー著『ドイツ怪異集』にある。


海に生まれたメァリ

イギリスに現れる怪異。ニューハンプシャーのヘニカーに近いある家に現れると語られる。このメアリは数奇な運命を辿った女性とされ、その出生は一七二〇年、ニューハンプシャーに向かう途中、ボストン湾で海賊に襲われた船の中でのことだった。

この船、ウルフ号の船長の妻がちょうど娘を生んだのだ。海賊の船長だったペドロ船長は、赤ん坊に「メァリ」の名を付けることを条件に、ウルフ号に乗る人々の生命を助けることを約束した。



 海の騎士

 

ドイツで語られる怪異。リューゲン島には、かつて海の中からやってきた騎士が浜辺にいた娘を踊りに誘ったという伝説がある。この騎士は首に黄金の飾りをつけ、海の青い色の王冠を頭に載せており、見事なステップで娘と踊ったという。

しかし踊りをいつまでもやめず、娘はだんだん苦しくなってきたため、やめてほしいと願うと騎士は「もう私はあなたを離さない。自由にしない。お前は水の精の妻になるのだ」と言って、海に引き込んでしまったという。

植田重雄著『ヨーロッパの祭と伝承』にある。


 エイヴベリーの村祭り

イギリスで現れた怪異。一九一六年のこと、オーディス・オリヴィエという人物がウィルトジャーのエイヴベリーを移動中、ずらりと並んだ古代の巨石の間を通り抜けた。そして遺跡の中央にある小山に登った時、薄暮れと雨の中で祭りの屋台や船の形をしたブランコ、祭りに集まった群衆の姿を見た。

 しかしそれから何年か経ち、彼女はエイヴベリーの祭りが、一八五〇年に廃止されていたことを知った。そしてオリヴィエが通り抜けたあの古代の巨石も、十九世紀に入る前に焼失していたのだ。



エンフィールド・フライヤー


イギリスに現れる怪異。ロンドンのエンフィールドで目撃される幽霊馬車で、暗闇の中から突然道行く人に向かって走ってきて恐怖させるが、人に当たる直前に消えるという。その際、馬車が地面から一八〇センチ以上離れた空中を走ってくるため、この名前で呼ばれるのだという。









エミリー姫の怨霊



イギリスに伝わる怪異。スコットランドに現存するダンスタフニッジ城は、美女の亡霊が現れることで有名で、その亡霊は一五世紀に実在したダグラス伯家の娘、エミリー姫であると考えられている。

 当時、エミリー姫は美女として有名で、国王ジェームズ一世に見初められ、間に三人の子をもうけていた。後に王妃として迎えられるはずだったエミリー姫だが、クリットン公という人物が自分の娘を王妃にすべく、娘を王の元に送り込み、さらにダグラス伯家の一族を皆殺しにした。そして最後に、エミリー姫の元に刺客を送り込み、彼女を凌辱した上に子どもたちを生きたまま暖炉に投げ込んで焼き殺した。これによりエミリー姫は怒り狂い、クリットン家を永遠に呪い続けると宣言して殺された。



エリングル・トローの幽霊

アイルランドに現れる怪異。アイルランドのモナガン邸のエリングル・トローにある古い墓地には、一人の幽霊が現れることで知られている。この幽霊は埋葬が終わり、若い男性か女性が一人になった際に現れる。

その時いるのが男性であれば美しい女性に、女性であれば美しい男性の姿となり、その人物を誘惑する。するといつの間にか次に会う約束をさせられ、その印にとこの幽霊とキスをすることになる。その唇は氷のように冷たく、我に返ると既に幽霊の姿は消えている。



老いた狂女



イギリスに伝わる怪異。ロンドンのハイゲート墓地に出現するという幽霊で、その正体は自分が殺した子どもを錯乱状態で探す老女なのだという。


 ロバート・グレンビル著『絶対に出る世界の幽霊屋敷』にある。ハイゲート墓地はほかにも様々な怪異が出現することで知られる。





オランダ人形のようなもの

イギリスで目撃される怪異。ロンドンの高級住宅街であるチェルシーのチェイニー・ウォークの川沿いの家の中に、幽霊が出ることで有名な家がある。この家の側を通ると、二階の窓からオランダ人形のような、グロテスクなものが身を乗り出しているのが目撃されることがあるという。

J・A・ブルックス著『倫敦幽霊紳士録』にある。



オールド・ジミー


イギリスで語られる怪異。ロンドンの聖ジェイムズ協会にあるミイラ化した遺骸の幽霊とされる。

一九四二年、この教会に不発弾が落ちてきて人々が騒ぎを起こした頃からあちこちに姿を見せるようになったが、このミイラの生前を知るものはいない。


しかし中世においてはかなりのステータス・シンボルであったガラス製の棺に入れられていることから、ロンドン市長のひとりではないかと言われているという。

J・A・ブルックス著『倫敦幽霊紳士録』にある。


お化けの飛び出し屋

イギリスに現れるという怪異。同国では複数、道路に突然飛び出してくる幽霊が現れるというスポットがある。バースとブラッドフォード・オン・エイヴォンを繋ぐ道路では、ロマ民族の老婆の霊がよく飛び出してくるため、自動車が道路から外れて事故を起こしてしまうという。

またA三八号線道路のバローガーニー辺りでは、白いコートの女が突然道路に現れては消える、ということをしでかすため、事故が発生するのだという。

 N・ブランデル他著『世界怪奇実話集』にある。

 

オプヂェリーハ

ロシアで語られる怪異。産屋としても使われるバーニャ(ロシア式蒸し風呂)に棲み着いているという妖怪で、お産があったバーニャには居着く。子どもを守ってくれる存在でもある。


ある時、少女が礼拝堂の側に骨が転がっているのを見て、「骨さん、骨さん、私たちのところに遊びにおいで」と言った。すると夕方になって少女のところに鉄の歯と骨の足を持った若者たちがやってきて、一緒に遊んだ。然し彼らの正体に気づいた少女は用を足してくると言って逃げ出したが、骨たちは追いかけてきた。そのためバーニャに逃げ込み、「オプチェリーハ母さん、どうか私を匿って!」と叫んだところ、

ウピール

ロシアで語られる怪異。吸血鬼の一種で、オピールともいう。人、馬、犬など様々な姿に変化することができ、水辺に棲み着く。家畜を追いかけまわしたり、水辺で行き会った人間を殺害するという。また魚を一匹渡すと荷車一杯の魚が取れる、出会っても決して言葉を交わしてはいけない、といった話も伝わるようだ。

 P・G・ポガトゥイリューフ著『呪術・儀礼・俗信』にある。

ウィル・オー・ザ・ウィスプ

ヨーロパ各地で語られる怪異。鬼火の一種とされ、これが現れるのは死の前兆などと伝えられる。その名前は「干し草を持ったウィリアム」を意味し、干し草に火をつけてさまようウィリアムという男の霊という伝承がある。ウィリアムは天国にも地獄にも行けなくなった男で、魂のままこの世を永久にさまよう、といった話も残る。

エル・シルボン

コロンビアやベネズエラに伝わる怪人。姿は農作業用の帽子を被り、大きな袋を担いでいるとされる。その伝説は以下のようだ。

エル・シルボンという少年が、ベネズエラのロスリャノスに住んでいた。彼の家族は農業を営んでおり、甘やかされて育った。

ある日、少年は父親に鹿肉が食べたいとねだり、父親は鹿を狩るために出かけたが成果が得られず、手ぶらで帰ってきた。それを見た少年は、狩猟用のナイフで父親を殺してしまった。そしてその肉を切り取り、何の肉が言わないなま母親に調理させる。しかし違和感を覚えた母親は、それが自分の夫の肉であることに気付いてしまう。

【か】

カール・クリント

イギリスに現れたという怪異。同国ケント州ミンチェスターの町はずれにある城に棲み着いていたという幽霊で、ポルターガイスト現象を起こしていた。

しかしこの城を買ったガブリエル卿という人物がこのクリントと交流を試み、アルファベットを一文字ずつ話し、該当する文字の部分で幽霊に音を鳴らしてもらうよう頼んだ。そこで幽霊はカール・クリントと名乗り、一〇〇年以上前にこの城で暮らしていたと語った。しかし女性を巡って一人の男を殺害し、地下に埋めたのだと語った。ガブリエル卿がその真偽を確かめたところ、実際にカール・クリントという人物が其の城に住んだ記録があり、また殺人事件も起こっていた。

コルンキント

ドイツで語られる怪異。麦小僧を意味し、昼間に麦畑で見知らぬ子どもが泣いていたらコルンキントだといわれている。この精霊は時折人間の子どもをとんでもないところへ連れ去ってしまうため、注意が必要だとされる。植田重雄著『ヨーロッパも祭と伝来』にある。同書によれば、この精霊はコルンムーメの子どもなのだという。

黄色い人

フランスに現れた怪異。顔が黄色く、喉の部分に赤印がある人間の姿をした存在で、初めて現れたのは一八七〇年、普仏戦争の直前であったという。それ以来、黄色い人はフランスが大きな戦いに参じる直前に現れるようになり、最後に現れたのは第一次世界大戦が勃発する数日前であったという噂もあるようだ。

『世界霊界伝承事典』


鉄枷のジャック。

イギリスに現れる怪異。ヨークシャーの裏道に出現する悪霊で、体に鎖が巻かれた長身の男の姿をしており、夜一人で外出する旅人を怖がらせるという。

ピーター・へイニング著『世界霊界伝承事典』にある。

チョールト


 ロシアで語られる怪異。チョールトは悪魔の一種とされ、馬車に乗って現れるという。この馬車の馬たちはどれも人間の脚を持っており、元々は人間であったが、川に身投げしたり、首を吊ったためにチョールトに馬にされ、水を運ばされるのだと伝えられる。

 斎藤君子著『ロシアの妖怪たち』にある。

同書によれば、キリスト教がロシアに流入する前から民間で語られていた悪魔で、一五世紀の文献に既に名前が見られるという。


ティムとジョージ



イギリスに伝わる怪異。ロンドンのサットン・ハウスに現れるという二人の幽霊で、大変仲が悪いとされる。この二人は生前、二つに分割されて貸し出されていたサットン・ハウスで暮らしていたが、折り合いが悪く、口論が絶えなかったという。その関係は死後も続いており、この家で今も頻繁に起こるポルターガイスト現象は彼らが引き起こしていると考えられている。




ヌチニーク

ロシアで語られる怪異。夜の精とされる存在で、川に棲む。光る体を持ち、川岸にいる人間を見つけると近づいてきて殺してしまうという。

P・G・ポガトゥイリョーフ著『呪術・儀礼・俗信』にある。同書によれば、ヌチニークは吸血鬼の一種であるという。


ネルソン提督の幽霊


【は】

フィングストル

ドイツに伝わる怪異。気味の悪い姿をした夏の訪れを告げる精霊とされ、現在でも北バイエルン地方の森では、仮装によりこの精霊の訪れを再現する。

 フィングストルに扮する人物は体を白樺の若葉の枝でびっしり包み、樹皮で作った仮面を被る。そして村の若者がフィングストルを連れまわし、最後に小川に投げ込んだり、水を注ぎかけたりする。それにより夏の豊穣を願うという。


ハッケンベルク

ドイツで語られる怪異。ドレームリングに現れるという魔王で、ハルツ山地から犬たちを引き連れて馬に乗り、ドレームリングへと降りてくるという。

ハッケンベルクは元々金持ちの貴族で、首領を趣味としていた。彼は日曜にも教会に行かず、森で猟をしていたが、そこに二人の騎士が現れた。

右側の騎士は恐ろしげで、乗っている馬の口と鼻からは炎が噴き出ていた。一方、左側の騎士は穏やかに見えた。


ブーデルフラウ





ビールろば







ブラック・モンク


イギリスで目撃された怪異。一九六六年以降、イーストヨークシャーのイーストドライブ三〇番に建つ家に出現するという幽霊で、その名の通り黒い装束を纏った僧侶のような姿をしている。ブラック・モンクはこの家の娘に危害を加えたり、ポルターガイスト現象を引き起こしたりするという。またその姿が写真に撮られたこともあり、二一世紀を迎えた現在でも、この家に棲み着いていると考えられているようだ。

 WEBサイト『THE Sun』などによる。



ブラック・ウォッチ


イギリスに伝わる怪異。ノーサンプトンシャーにあるライヴデン・ビュービルトは建設途中で放棄された庭園住宅だが、そのミドルガーデンと呼ばれる庭には、スコットランド人の幽霊が取り憑いていると考えられている。この幽霊はスコットランドの歩兵部隊「ブラックウォッチ」の兵士たちで、一七四三年に英国軍に包囲され、降伏したものの、餓死や処刑によってそのほとんどが死亡した。この場所では、嵐の夜になると今でも兵士たちのバグパイプと太鼓の音が聞こえてくるという。

『英国の幽霊伝説』


ブラック・ドッグ

イギリスに伝わる妖精。その名の通り黒い犬の姿をしており、これを見ると近いうちに不幸が起きたり、死亡するとされる。

別称を「ヘルハウンド」と言い、口から硫黄のような匂いの炎を吐く、突然轟音とともに消えるなどとも伝えられる。


プラックリー

イギリスで語られる怪異。ギネスにも投稿された、イギリスで最も幽霊が出現するとされる村で、悲鳴を上げる男、剣で木に突き刺さり、固定された男、声だけが聞こえてくる男女の会話、炎に包まれた女性







フラナン諸島の幽霊




フレッドの幽霊


イギリスに伝わる怪異。イングランド北東の海岸部にあるスーター灯台に棲み着いている幽霊は、この灯台で働くスタッフたちから「フレッド」とよばれている。この幽霊はいたずら好きで、スタッフの物を隠したり、階段を登る人間のお尻をつねったりするという。しかし大きな悪さはせず、スタッフたちに親しまれているようだ。

『英国の幽霊伝説』にある。


ヘクサムの半獣人


イギリスで語られた怪異。一九七一年のこと、ヘクサムのある家で庭から二つの石でできた頭蓋骨が見つかった。それ以来、この家では体の半分が人間、もう半分が羊という奇妙な化け物が現れるようになった。

そこでこの頭部はニューキャッスルの博物館のアン・ロス博士の元に送られ、捜査されることになったが、今度は彼女の元に身の丈2メートル七〇センチ以上ある半分が人間、半分が狼の姿をした化け物が現れた。





フランシス・ドレイクの太鼓










ブルーバードの生と死


イギリスで語られた怪異。一九三五年のこと、イギリスのレーサーであるマルコム・キャンベルは、息子のドナルド・キャンベルとともにアメリカのユタ州にて、レーシングカーであるブルーバードで速度の世界記録を樹立した。しかしそのレースで車輪から火を吹き、衝突事故を起こした二人は、九死に一生を得た。







ヘクセ

ドイツで語られる怪異。毎年一一月一一日に始まる祭典「ファストナハト」の中で仮装される魔女。仮想する人物は黒の上衣に赤のスカート、藁で編んだ靴という出で立ちをしている。顔には太い眉に大きな赤鼻、目玉をぎょろつかせた老女の仮面を被り、手には箒や棒を持つ。またヘクセたちを指揮するウルヘクセという存在もいる。

ヘクセたちは広場で焚いた篝火「ファストナハトの火」に古いぼろ切れや腐った樹木などを投げ込んで燃やし、最後に冬と死を象徴するデーモンに見立てた藁人形を火に入れる。こうして魔女たちは冬を退散させ、春の恵みをもたらすのだという。



ブロッケン山の怪物










バネ足ジャック




ハロウィン






バッキンガム宮殿の幽霊たち







ベルトンのブライト・レディ



イギリスで語られる怪異。リンカンシャー州にあるベルトン・ハウスという占い邸宅に出現すると伝わる幽霊で、その名の通り黄金の光に包まれて現れるという。この幽霊の正体は一七世紀初めにベルトンに移り住んでいたアリス・シェラード夫人と考えられている。

シャーン・エヴァンズ著『英国の幽霊伝説』にある。同書によればこのベルトン・ハウスには他にも様々な幽霊が出現するようだ。黒い服を着た貴婦人の霊、黒い帽子に肩マントを羽織った「黒服の紳士」と呼ばれる霊、グレーの服を着た謎の紳士の霊などが目撃されているという。





ペルヒタ


ドイツで語られる怪異。魔女のひとりで魔物の群れを引き連れ、不思議な音楽を奏でながら夜に現れるという。多くの場合、この群れは廃墟や山小屋に集まり、寂しい道で歌ったり、踊ったりしているが、たまに人がいる家の戸を叩く場合がある。その場合はついて行ってしばらく一緒に踊り、それからそっと見送らなければならない。そうしないと打ちのめされることがあるという。





ベルゼブブの馬車


ドイツに現れる怪異。ドルンゼンベルクという山の麓に出現すると語られる怪異で、魔女を乗せた火の息を吐く馬がガラスの馬車を引いて走っていき、御者台には魔王ベルゼブブが座っているという。これは人間の魂を数多く持ってきた部下たちを魔王自身が楽しませてやっている光景なのだという。







ポウクーン







【参考文献】

世界現代の怪異事典




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オリキャラの設定集です 薄雪姫 @KAGE345

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