第10話 魔術の使えない剣士


剣士レヴィには、魔術が使えなかった。

幼少の頃から伝えられた、魔術回路の異常。治癒魔術や医療でどうにかできるような代物でもないらしく、修正が不可能だという忌々しい体質。


しかし、世界は彼女の気持ちを捨てるように、魔術を発展させてきて、魔術をよしとしてきた。

戦いでは剣よりも魔術。当たり前だ。距離を離して攻撃ができて、防御や攻撃、治癒も可能な万能の力。

その認識は根強い。剣士といえば、ただ剣を振るう者ではなく、魔術も扱うことのできる魔剣士だ。


誰でも基本的な魔術を使えるのは当たり前。それが世界の認識だった。


ゆえに、レヴィは世界に必要とされなかった。十年以上も剣を極め、剣の道において他の追随を許さないほどになっても彼女は魔術が使えないという理由で冒険者のパーティを組むことができなかった。

既に極めた彼女の剣は、多少の魔術なら斬れるようになっていた。

だが、実戦で使えるものかと聞かれればそうではない。上位魔術などには、手も足も出ないのが現実。

そんな中で、孤高で戦い続ける赤髪の剣士。最初はそれが理由で“赤鬼“という名がつくようになった。


「君、剣士だろう?どうかな。ボクのところで戦ってほしいんだ」


そんな彼女を拾ったのが、亡き一人の魔術師。

最初に声をかけたのは、物腰の柔らかい小柄な少年だった。身長はレヴィと同じくらいで、細身。

依頼書の貼り付けられるコルクボードの前で声をかけてきたのは記憶に新しい。


「…………いいのか。私は魔術を使えない。こんな私では、獣のように戦うことくらいしかできない」

「うん?ボクだって剣を使えないよ?ビビりで前にも立てないし、君みたいな人がいるとありがたいんだけど……もしかして、遠回しに断られてる?」

「私では足でまといになると言っている」

「え?そりゃないでしょ」


優しく目を細めながら、少年は言った。


「前に見たよ。君の剣、とっても綺麗だ。誰よりも洗練された剣筋。素人目でも惚れ惚れするよ。ボクは君みたいな前衛がほしいんだ」

「……………………………………」


そんな言葉にレヴィは、自然と涙を流していた。

初めて自分を、自分の力を、魔術ではない剣を、そんな部分を見てくれたことに、彼女は胸があふれた。


のちにきた、彼の仲間の魔術師も、同じように対応してくれた。


「おぉ、あんたがあの剣士さんか。俺も見てたよ。あの剣の動き、バカにはよくわかんなかったが、すげぇ綺麗だった。マジで感動したよ。あれが“本当の剣士“ってやつか」


多少言葉づかいの荒い魔術師だったが、腕は確かだった。特に攻撃系の魔術を得意とし、前線でも戦えるほどのフィジカルも有しており、後にレヴィと共闘することも多かった。



しかし、そんな魔術師たちも、リッチーを前に散った。



小柄な魔術師が張った封魔術結界も虚しく、全員がリッチーの前に倒れ、既に荒っぽい一人の魔術師が殺されていた。

残った小柄な魔術師とレヴィも瀕死の重症。特に魔術師の方は、リッチーから狙われ続けたためにひどい怪我を負っていた。もはや生きているのが不思議なほどの大怪我。


「合成魔術———……『隠者の口寄せ』」


彼が最後に振り絞って使った魔術は、自分ではなく助かる見込みのあるレヴィに使用した。

死に瀕している中でも、優しい笑顔を浮かべながら、彼は瞳を閉じていく。


「君は…………強いよ。だから、きっと…………ボクなんかよりいい魔術師に会える……」


最後にそう言って、彼は死んだ。

それを表すように、封魔術結界も崩壊していく。

それが、レヴィの意識が途絶える直前までの景色だった。

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