【短編】きっといつまでも貴方と共に。
保紫 奏杜
きっといつまでも貴方と共に。
ふと、何かに呼ばれた気がして。
セリュエスは夢の中から浮上し、眠気で開きがたい目を開けた。高い
「
彼らは
◇◇◇
村は皆寝静まり、空を仰げば細い月と満天の星空が広がっている。セリュエスは夜間着に軽く上着を羽織った格好で、森への小道を歩いていた。目指す場所は、その途中にある。肌を撫でる夜風はもう冬のように冷たくはなく、散歩には丁度良い頃合いだ。
美しい夜空に心を奪われていると、ふいに唸り声が耳に届いた。気付けば、森の傍まで来てしまっていたようだ。血のように赤い目をした小さな異形の者たちに囲まれている。森や洞窟に棲むと言われている魔物――
村の中だからと油断し過ぎていたことを後悔した瞬間、
鮮やかな炎の魔法。おそらくは無詠唱で放たれたものだ。そんなことが出来る者は、知っている中では彼しかいない。
期待を込めて振り向けば、会いたかった人物が立っていた。うねりのある長めの銀髪は、ひと月前よりも少し伸びている。闇色の瞳を
そんな彼の傍には、やはり
「ウィヒト!」
彼に駆け寄れば、広げられた両腕で迎えられた。抱き締められ、肩口で安堵の深い溜息を
「まったく、こんな深夜に一人で散歩など」
「ごめんなさい。
心配させたことを謝ってから、セリュエスは正直に白状した。
また、彼の溜息が吐き出された。今度は少し、呆れたような笑みが含まれた気がする。抱き締められる腕が僅かの間、強まり、
彼は九つも年上で、並外れた力を持つ優れた魔導士だ。そして誰よりも、自分たち魔導士の未来のことを考えている。各地の領主の保護という名目の元、小さな村に押し込められていることを、彼は良しとしていない。領主の跡継ぎである
「
そう言えば、ウィヒトが肩口で
「それほど
「え?」
興味を引かれ顔を上げれば、ウィヒトの抱擁から解放された。彼の住まいの庭に誘われる。そこには、外の棚に並べられた
改めて謝ろうと口を開く前に、ウィヒトに軽く頭をたたかれた。
「
「すごいわ、それ見たい!」
ウィヒトは魔導の他、
「
「え? どうして?」
疑問の答えを求めると、ウィヒトが困ったように笑みを浮かべた。
「どうやら二十三年ごとらしくてな」
「えぇと、つまり?」
「そうだな……お前が二十八になれば、祭りが見られる」
「ええー! ずっとずっと先じゃない」
まだ自分は十五歳になったばかりなのだ。待ちきれずに頬を膨らませれば、ウィヒトの大きな両手に頬を包み込まれた。
「すぐにその時は来る。その頃には、お前は我の妻だ」
「つ、ま」
視線を合わせて真正面から受けた彼の言葉に、心臓が跳ね上がった。恥ずかしさから彼の両手から逃れ、目線を外す。
そうだ、十五になった誕生日――ひと月前に、彼と婚約したのだった。忘れていたわけではないが、急に現実味を帯びた気がする。彼の妻として、彼と旅をする想像をしてみた。彼は旅先でのあれこれを、色々
ふと視線を感じ、セリュエスはウィヒトを見上げた。彼から向けられる柔らかな眼差しに、一気に熱が上がりそうになる。彼がこんな
「……やはり心配で放っておけぬな」
「大丈夫よ? 今は家に一人だけど、村の皆もいるもの」
ウィヒトの心配を一蹴すれば、彼があからさまに呆れた顔をした。
「これに関しては、お前の可否は受け付けん」
そんなことを言うから、他の人から
家の中へ
【短編】きっといつまでも貴方と共に。 保紫 奏杜 @hoshi117
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