第七章 除の声主


「私の声に……特別な力がある?」


三笠はアキの言葉を信じられずにいた。


「私の声に、呪鬼を追い払う力があったってこと?」

「まあ、端的に言えばそういうことだ。お前が呪鬼の動きを遅くさせたから、ハルの攻撃が間に合った。あとはこちらの方が上手だったから、無事に呪鬼滅殺を行えたってわけさ」


ぽかんとしている三笠に、ハルがさらにいう。

「俺たちは、この呪鬼に対する力を持つ声の主を、『除の声主』と呼んでいるんだ。ミカサはそれってわけなんだけど」

白い歯を見せて、ハルはまぶしく笑う。

「その力を生かして、俺たちと一緒に『鬼祓い』やらない?」

「僕からもお願いする」

アキも隣で頭を下げた。

「天乃三笠、俺たち陰陽師に力を貸してくれ。どうか、頼む」


「ちょ、二人とも……頭、あげてよ」


三笠の戸惑ったような声に、アキとハルは顔を上げた。

彼女の困惑は当たり前だった。転校して早々、双子に絡まれ、部活も決まり友達もでき始めた頃に『呪鬼』に襲われる。そしてまた双子と関わることになり、彼らの正体が陰陽師で、実は自分の声にも不思議な力があって……という話をされたのだから。


 だが、双子もここで引き下がるわけにはいかなかった。

 はるか太古から、『除の声主』は存在していた。彼らは陰陽師によって見極められ、呪鬼退治に協力していたのだ。しかし、呪鬼は自分たちに対抗する力を持つ声主たちを警戒し始める。戦国時代半ばごろには、呪鬼の襲撃によって、除の声主の数はどんどん減っていっていた。現代では、除の声主は数えるほどしかいないそうだ。そんな希少な力を持つ少女が、今目の前にいる。陰陽師としては、ぜひとも呪鬼をともに倒してほしいところなのだった。


 だが、ハルとアキは優しさも持ち合わせている。三笠がなかなか返事をしないのを見かねて、二人は声を掛けた。


「ごめん、突然いろんなこと言って、こんがらがったよね。別に呪鬼退治は断っても大丈夫だよ」

「昨日……怖かったもんな。すまない、こちらとしても配慮が足りなかった」


 すると、三笠は二人が思っていたのとは真反対の声を出した。


「あはは」


明るく、朗らかな笑い声。心から面白いという風に笑っている。


「何その、どこかの少年漫画っぽい展開!ウケる!」

『は?』


なにがウケるんだよ、こちとら真剣なんだよ、と悪態をつくアキを、ハルが諫める。

「ほら、除の声主様が乗り気になってきたぞ」


「でも、面白そう!その話、乗ったよ私。一緒に呪鬼祓う!」


ノリのような口調で返事する三笠に、アキは毒づく。


「お前なぁ、命の危険があるかもしれない陰陽師の仕事に、『面白いから』やるはないだろう。ほんとにいいのか?」


「え、命の危険があるの?」


「馬鹿かお前は!話の中で何回も言ってるだろうが!」


「あれ、そうだっけ」


「知ってるか?鶏って三歩歩いただけで、物事を忘れるんだってよ」


「へー、そうなんだ。で?アキくん?」


「だから、一歩も動かないで僕の話を忘れたお前は……って、もういい!くだらない」


「くだらないのは、二人ともだよ」


ハルが三笠とアキの頭に優しく拳骨を落とした。

「いてぇ」

「痛っ!」


大げさに驚いて見せるアキと三笠に目をやりながら、ハルはもう一度尋ねた。

「で、三笠、いいんだね?命の危険があるけれど、呪鬼祓いに協力してくれるってことで」

「んー」

三笠は一瞬迷うそぶりを見せてから、こう答えた。

「私が死にそうになったら、二人が助けてよ。双子の陰陽師さん」


ハルとアキは、顔を見合わせた。そして、再び特別な力を持つ少女の方を向く。


そして、思いっきり頷いた。


「もちろんです。声主様」


こうして、三笠と、ハルと、アキ。三人の呪鬼祓い体制が確立された——。


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