第一章 天乃三笠の朝

「み・か・さ!

 さっさと起きなさいよ!」


 誰かが布団を叩いてくる。


「うーん……」


 天乃三笠あまの みかさは眠い目をこすりながら上体を起こした。


「あれ、お母さん……まだ六時でしょ?」

「今日は新しい学校に行く初日でしょう。先生に挨拶とかしなくちゃなんだから、早く行くわよ。ほら、三笠、起きなさーい。」


 二度寝しようとした三笠を母は再度たたき起こす。仕方なく三笠は学校へ行く準備を始めた。





「んじゃ、いってきまーす!」


 諸々の準備を終えた三笠は、玄関で靴を履く。そしてリビングにいる母と父に向けて、大声で挨拶をすると、家を出た。


「うーん。いい朝ね。この街に引っ越してきてよかった。」


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ三笠ったら!」


 背後から息を切らしながら追いついてきたのは、母だった。


「お母さんだって先生にご挨拶しなきゃでしょ。一緒に行くって言ったのに、三笠ってば先行っちゃって。」

「あれ、そんなこと言った?」

「昨日の夜、言わなかった?」

「覚えてないよ。昨日、か……」


 母が顔を覗き込んでくる。


「昨日?何かあったかしら?引っ越しの片付けも終わっていて、あんたなんか漫画読んでたじゃない」

「う、ううん。なんでもない」

「あら、そう?じゃあなんて言いかけたのよ?昨日か……、って」

「気にしないでよ、なんでもないから」

「そうなの?……困ったことあったらなんでも言いなさいよ。転校で不安も多いでしょ」

「分かってるよ。ちゃんと言うから。だから、私は大丈夫だって」


 はね付けるように言い、母を黙らせる。――お母さん。そんなこと言ったって、言えるわけないよ。



 昨日の夜、家の前の公園にアレがいた、だなんて……絶対に。

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