となりの晴明くん

咲翔

序章


 ここは関東地方、千葉県内のとある町。桜が散り始めた季節の、ある夜のこと――静かな町では死闘が繰り広げられていた。


「まだ倒れないのか、この図太い奴め! さっさとあの世へ行きやがれ!」


「これを倒しても、あの世へは行かない。消滅するだけだ」


 町の大きな公園の夜空に跋扈する二つの人影。


「あー、もうそーゆーさ、ツッコミは今求めてないから。俺だって知ってるよ、そんなことくらい。あの世っていうのは比喩だし、比喩!」


「ほう、ハルが比喩という言葉を知っているとはな。驚きだ」


「はあ?バカにしてんのか?なんならアキの方から消滅させてやってもいいぜ」


「できるもんならやってみな、といいたいとこだがな。ちょっとやばくなってきたぞ、こちらさんが」


 一つの人影が指差す先には、何やら巨大な深い闇が広がっていた。


「うっわー。さっきより大きくなっちまってるじゃん!」


「僕らがくだらないいさかいをしてる間にな。……じゃ、そろそろ除霊と行きますか」


「おう!準備万端だ。行くぞ!」


 二人は大きな闇のもとへと跳ぶ。


りんぴょうとうしゃかいじんれつざいぜん!』


 二つの声が揃う。


『呪鬼滅殺!』


 白いお札のようなものが闇に向かって放たれると同時に。

 

〈ウオオオオオオオオオオ――――〉

 

 断末魔の叫びが夜空にこだまする。


 一瞬の後、静寂が公園を包み込んだ。

「終わったな。意外に弱かったか?」

「見かけによらずってやつだなー」

「……帰るか」

「えー、アキー。ここの近くのさ、つい最近オープンしたカフェ行ってからにしようよー」

「バカかお前は。今何時だと思ってんだ。カフェなんか開いてない」

「ちぇ」


 二つの人影が公園をあとにする。再び町は夜の闇に溶けた。

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