Vergessenー17

体育倉庫での騒動の翌日、私は体育館で行われている全校集会に出ていた。

内容は昨日の体育倉庫での火災、そして柏木先輩の件についてだ。

司会と進行はいつものように橋本先生が担当している。

「・・・・校長先生、ありがとうございました。

以上で全校集会は終わりですが、最後に・・・・」

長い長いお話が終わり、私たちはようやく解放された。

学校側からの発表では柏木先輩の件は自殺、

火災については不注意による事故だった。

そんなはずがないのに。

あの後、橋本先生に呼ばれた消防隊員により

無事体育倉庫の残り火は鎮火ちんかされ、

酒井健二と山田晃希は病院に搬送された。

二人はけがや病気は無かったが今も意識は戻らず、入院中だ。

私と坂木さんは当然警察に捕まり質問攻めになったが、

その時到着した刑事さんが、以前私の家に来た勅使河原てしがわら警部だった。

彼は坂木さんとも知り合いだったようで一目見るなり、

全てを察した様子で坂木さんを車に乗せて連れて行った。

私は危険に巻き込まれた上に同級生があんなことになり、

疲れているだろうからとそのまま家に帰された。

朱莉あかり、ボーッとしてどうしたのよ」

ハッとして振り返ると久美ちゃんがすぐ後ろに立っていた。

「さっさと教室戻ろうよ。皆行っちゃったよ」

「ごめん、ちょっと考え事してて」

「しっかりしてよね。最近マキの奴はますます変な感じになってるし、

朱莉までおかしくなっちゃったら私泣いちゃうよマジで」

「うん、心配かけてごめんね」

冗談っぽく泣きまねをする久美ちゃんに笑いかけながら謝罪する。

彼女の話ではここ数日のマキちゃんの様子は特におかしいらしい。

ボーッとしている時間が増えただけでなく、

普段会話している時ですら心ここにあらずといった感じで遠くを見ている。

まるで今にも消えてしまいそうなはかなさを感じるそうだ。

「マキちゃんは今日も休み?」

「うん。一応今朝あの子の家に寄ったんだけどいなくてさ。

お母さんが言うには部活の朝練だって言って朝早くに出たらしんだけど」

「えっ? じゃあ学校には来てたんだ」

「まさか。この学校の女バスは朝練なんかしたことないよ。

ていうか試験近づいてる今の時期はそもそもどこの部活も朝練禁止だし」

「もしかしてこっそり一人で練習してるのかも。

最近練習サボりがちって聞いたし、

その分取り返そうとしてるんじゃないかな?」

「おいおい、マキに限ってそんなことあるわけないじゃん。

朱莉も知ってるでしょ、あの子のマイペースは。

カメの方がまだ機敏きびんに動くわよ。

どうせどっかで変な趣味でも見つけてのめりこんでるんじゃないの。

こんな調子じゃマキが私らの後輩になるのも時間の問題ね。

まったく、ホントにどこで何してるんだか・・・・」

そう言うと久美ちゃんはため息をつき、肩を落とした。

彼女も口では憎まれ口をたたきながらも本心では心配しているようだ。

そんな話をしていた時、ポケットがブルブルと震えているのを感じて、

スマホを取り出すと坂木さんからメッセージが届いていた。

『学校が終わったら、この地図の所へ集合』

シンプルな文章に地図の画像が添付されていた。

この人は文章でも無愛想なんだな。

昨日の一件で親しくなれたと思ったのに・・

・・いや別に仲良くなりたいとかそんなことは一切ないけど!

「・・・・それなら、朱莉にも付き合って欲しいなって思うんだけど」

「えっ?」

突然自分の名前が聞こえてきて話しかけられていることに気づいた。

横を見ると久美ちゃんが見覚えのある生徒と会話していた。

確か彼女は・・・・

「村山さん!」

そこには柏木先輩の友人で軽音部の村山絵里さんが並んで歩いていた。

「おっ、やっと気づいたよ。

ってかよそよそしいな、絵里で良いよ。あたしら親友だろ朱莉!」

いつの間にか親友に昇格していたらしい。

村山さんは気さくな態度で私に近づくと肩を組んできた。

「よっ! 元気してたか?」

「どうしてここに? こっちは一年の教室の方向ですよ? 

むらや・・・・絵里さん」

村山さん呼びに露骨ろこつに顔をしかめられ、名前で呼ばざるをえなかった。

「その様子だとあたしらの話聞いてなかったな。

仕方ないな、もう一回初めから話すけど、

昨日はあたしも部活に顔出す気分じゃなくなってさ、

いやあれだぞ、別に昼休みのことが原因とかじゃなくてな。

てかあたしはあれ泣いてないからな。泣いてないけど誰にも言うなよ」

「要するにこの先輩がマキを見たって言ってるのよ」

久美ちゃんが代わりに答えた。

「マキちゃんを? でもよく私の友達だってわかりましたね」

「ブツブツとお前らの名前呼んでたんだよ。

あかりちゃーん、久美ちゃーんって、

明らかに正気じゃなかったよ。

久美ちゃんは今知り合ったけど、朱莉ってのは聞き覚えあったし、

ウチの一年の制服だったからもしかしてと思ってさ」

「なんでその時に捕まえてくれなかったんですか!」

久美ちゃんがめずらしく興奮した様子で食ってかかる。

「人も多かったから気づいたら見失ってたんだよ。仕方ねえだろ」

「・・・・それで今日学校が終わったら

そこにマキを探しに行こうと思うんだけど、

場所が場所だから一人だと心細くてね。朱莉にも来てほしいなって」

行きたいのはやまやまだ。

話を聞く限りでもマキちゃんは危険に巻き込まれているかもしれない。

しかし、坂木さんからのメッセージも無視するわけには・・

「心細いってどこなの?」

ふと久美ちゃんの言葉が気になった。

「ここだよ」

絵里さんがスマホで地図を開いて見せてくれた。

最寄りの上橋駅から学校とは反対方向に進むと見えてくる工業地帯だ。

工業地帯と言ってもそれほど大規模なものではなく、

小さな工場がいくつか集まっている地域だ。

その多くが廃工場で、不良のたまり場になっていることで有名だ。

「ここの手前の繁華街はんかがいで人込みの中にその子を見かけて、

そっちの方に歩いて行ったんだよ。

人をかき分けてここの入口辺りに出た時には消えてたんだよ」

絵里さんが肩をすくめながら説明してくれた。

「それで来てくれる?」

久美ちゃんが期待を込めた眼差しで見つめてきた。

「もちろん。もしここにマキちゃんがいたら危ないもん。

いなくても何か手掛かりがあるかもしれないしさ」

「あんたら仲間思いなんだな・・気に入ったよ!

あたしもついてってやるよ!」

絵里さんが胸を張りながら宣言した。

「そんな悪いですよ」

「気にすんなよ。友達の友達は友達だろ?

それに二人ともそっちの方にはあんまり行かないだろ?

あたしは近所だからそれなりに詳しいし案内役にピッタリだって」

結局、絵里さんは強引に押し切る形で同行が決まった。

「それじゃあ、放課後に正門集合な」

「あの、そこに行く前に少し寄り道してもいいですか?」

「良いけど、どこ?」

久美ちゃんが聞いてきた。

「繫華街のとこにあるドーナツ屋さん」

私は坂木さんから送られてきた地図を確認すると二人に伝えた。

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