第2話 彼女の母、古賀千春

 ブラを拾ったお礼と、今後の良好な関係のため、古賀さんの家に行くことになった僕。女子の家は初めてだから、失礼がないようにしないと。



 下校中。古賀さんの隣を歩いている時に、彼女が声をかけてきた。


「母さん、あんたの昼も作ってくれるみたいよ」


学校を出る前、古賀さんがお母さんに『今村を連れて帰る』と連絡したのを聴いた。昼前に突然来ることになった僕に作ってくれるなんて…。


「本当に作ってくれるんだ。嬉しいな…」


「その代わりと言っちゃなんだけど、質問攻めにあうかもね」

ニヤニヤしながら言う古賀さん。


それは仕方ないけど、お手柔らかにお願いします…。



 古賀さんのお母さんに会ったマンション前に到着した。

3階なのは朝の時わかったけど、それ以外はサッパリだ。


「ウチは『303号室』なの。ここからはアタシに付いて来て」

そう言われたので、古賀さんに付いていく…。


……303号室前に着いた。いよいよか、緊張するな。


「そんなに緊張しなくて良いから」

顔に出ていたのか、古賀さんが僕の緊張をほぐしてくれる。


「…うん」


彼女が玄関の扉を開けて入ったので、僕も続けて入る。



 「ただいま~!」


「お邪魔しま~す」


玄関で挨拶した時だ。リビングから古賀さんのお母さんが出てきた。


「おかえり、千夏ちゃん。今村君はいらっしゃいよね♪」


「…どうも」

同日にまた会う事になるなんて、朝の時は予想すらしてなかったよ…。


「母さん。昼は何を作ってくれるの?」

メニューは聴いてないから、僕も気になる。


「焼きそばにするつもりだけど…。今村君はどうかしら?」


「焼きそば好きです!」

シンプルな料理だけど…、良いよね。


「それは良かったわ♪ できるまで、リビングで待っててちょうだい♪」


「はい、そうさせてもらいます」


古賀さんのお母さん・古賀さんに続き、僕はリビングに向かう。



 リビングに入って早々、古賀さんのお母さんは焼きそばを作るためキッチンに向かう。


…見渡したところ、ソファーと4人掛けのダイニングテーブルが印象的だ。

キレイに整理整頓されていて、居心地が良いリビングだな~。


古賀さんはテーブルの椅子に腰かける。


「今村は、アタシの隣で良いわよね?」


「良いよ」

彼女にそう答えたので、隣に腰かける。


「今村はさ、どの辺に住んでるの?」


「○○小学校あたりだよ」

家から徒歩数分で着く。僕はその小学校の卒業生だ。


「ウチから結構近いじゃん! アタシは〇△小学校卒よ」


〇△小学校は、○○小学校より少し遠いけど、それでも家から徒歩圏内にある。

古賀さんの家からだと、僕の家より近いはず。


別々の小学校の僕達は、中学も別々となる。


お互い近くに住んでいるのに出身校が違うのは、住んでいるエリアにより進学する小学校・中学校が変わるからだ。


学校が違えば、たとえ近くに住んでいても接点はないよね…。


「今村が近くに住んでるなんて驚きよ。これからも仲良くしてよね」


「僕のほうこそ」


人生初の女子の友達になるかも…?



 リビングに焼きそばのソースの匂いが漂ってきた。良い匂いで食欲をそそるよ。


「……できたわよ~!」

キッチンで古賀さんのお母さんが、僕達に聴こえるように大きな声で言う。


彼女は皿・箸を3人分とトングを用意した後、焼きそばを焼いたフライパンをテーブルに持ってきた。テーブルが傷まないよう、鍋敷きも一緒だ。


「普段はこんな事しないけど、今村君がどれだけ食べるかわからないから、取り分けるわね♪」


「お手数おかけしてすみません」


「全然お手数じゃないわ♪ 今村君は男の子だし、これぐらい食べるわよね?」


古賀さんのお母さんはトングで焼きそばを大量につかみ、皿に置いた。


これ、麺だけで2人前はある気が…?

この状態で具材がプラスされるから、ボリューミーだ。


「古賀さんのお母さん。さすがに多いです…」

食べきれる自信がない。


「古賀さんのお母さんなんて、他人行儀ね♪」

と言った後に、彼女はハッとした顔をする。


「私、今村君に自己紹介してないわ。ゴメンね、うっかりしてて」


「いえ…。気にしないで下さい」

誰だって、うっかりはあるし…。


「私は『千春ちはる』って言うの。遠慮なく名前で呼んでね♪」


クラスメートのお母さんを、名前で呼んでいいものなの?

…本人が望んでるなら良いか。


「わかりました。『千春さん』と呼ばせてもらいます」


「じゃあ私は『玲君』って呼ぶわ♪」


「母さん、凄いわね…」

古賀さんはそうつぶやいた。


「古賀さん。何が凄いの?」


「…母さんは『千春さん』なのに、アタシは『古賀さん』なの? そんなの変でしょ!」


変って言われても…。勝手に名前で呼んだら、馴れ馴れしいよね。


「アタシの事、『千夏ちなつ』って呼んでよ。アタシは『れい』って呼ぶから!」


千春さんに対抗意識燃やしてる?


「うん、良いよ。『千夏さん』」

僕も違和感があったので、このほうが良い。


「これからよろしく、『玲』!」


こうして僕達3人は、早くも名前で呼び合うようになった。



 焼きそばを取り分けた後、食べ始める僕達。

先程の量は多すぎなので、少し減らしてもらった…。


それでも、僕が一番多い量になっている。


「母さん、聴いて! 玲って、近くに住んでるのよ」


さっきの話を千春さんにする千夏さん。


「…そうなの? すごい偶然ね♪」


僕も同感だ。近くに住んでると、困った時助け合えるよね。



 千春さんが作ってくれた焼きそばはとてもおいしい。文句の付け所が一切ないからね。けど、気になることが1つだけある。


それは、キノコ類がすごく多い事だ。シメジ・マイタケ・エノキなどなど…。


キノコは栄養満点だし、優秀な具材なのはわかるけど…。


「玲君。キノコは嫌いかしら?」

箸でキノコをつかんだままの僕に、真正面に座っている千春さんが訊いてくる。


母娘で向かい合うのが普通だと思ったけど…。


「そんな事ないですよ。ただ、家ではこんなに食べないので」


「そうなの? アタシ、キノコ好きなんだ♡」


ん? 千夏さんの声のトーンが変わった?


「私もよ。…このキノコ、すごく大きい♡」

そのキノコを箸でつかむ千春さん。


さっきからに聞こえてしまう…。僕が汚れているから?


「キノコを観てると、を思い浮かべちゃう…♡」

独り言を漏らす千夏さん。


「千夏ちゃん。それ以上は、玲君の前だから…」

千春さんが急にオロオロし始める。


これ…。僕の気のせいじゃないぞ。


「2人とも。僕の勘違いなら謝りますが、下ネタ言ってます?」


……リビングに沈黙が流れる。


僕、やっちゃったかも? 2人に引かれちゃった?


「そ…そうよ。アタシ達、家では下ネタを話すことが多いの」

千夏さんが恥ずかしそうに説明し始める。


「玲君ゴメンね、不快にさせちゃって」

申し訳なさそうな顔をして謝ってくる千春さん。


「全然気にならないです。遠慮なく話して下さい」


下ネタに特別思う事はないけど、2人が話す下ネタは受け入れられるな。

誰が何を話すかって、案外重要なんだな…。


「…ありがと、玲。これからいつも通りにさせてもらうわ」


「玲君は優しい子ね♪ 玲君と仲良くしたいと思った私は間違ってなかったわ♪」


2人とも、笑顔になってくれて良かった。



 キノコトークもあったけど、焼きそばを完食した僕達。

…本当においしかった。大満足だよ。


「玲君。焼きそばはお口に合ったかしら?」

千春さんに感想を求められる。


「はい! とてもおいしかったです。ごちそう様でした!」

千春さんの料理を毎日食べられる千夏さんが羨ましいよ。


「母さん。玲もいることだし、お菓子食べたい!」


「良いわね♪ 玲君はどう?」


2人とも、僕より少ないとはいえしっかり食べてたような…?

『デザートは別腹』ってやつ?


…そういう僕も、お菓子と聴いて食べたくなったよ。


「僕もいただきます」


「わかったわ♪ 紅茶かコーヒー、どっち飲みたい?」

お菓子に合う飲み物と言えば、この2つだね。


「紅茶でお願いします」


「アタシも紅茶!」


「2人とも紅茶ね♪ 私はコーヒーにするわ」

千春さんは立ち上がり、キッチンに向かう。


これから、お菓子タイムが始まる…。

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