舞い落ちるブラと彼女の呼びかけが、僕の運命を変える

あかせ

第1話 空からブラが降ってきた

 高校最初のゴールデンウィーク明け初日。休み明けの影響で、つい寝坊してしまった。遅刻ギリギリだから、頑張ってダッシュしている状況だ。


曲がり角を曲がり、高層マンションの下を通ろうとした時…。


「君! 上に気を付けて!」


マンションの上から女性の呼びかけが聞こえる。僕は慌てて立ち止まり確認する。


…? 何かが舞い落ちている? よくわからないまま、それは地面に落ちる。

正体が気になった僕は、持って広げてみた。


これ…、ブラじゃないか! 赤くてかなり大きいな…。


「すぐ取りに行くから、待っててくれるかしら?」

マンション3階のベランダにいる女性は、そう言ってから部屋に入っていく。


これから僕の元に来るようだ。このブラを返せば一件落着だな。


…よく考えると、あの女性が来るまでこのブラを持って待たないといけないの?

状況的に不自然だ。どう見ても不審者でしょ?


僕は鞄で隠しながら、女性を待った。お願い、早く来て。



 それからすぐ、マンションの出入り口からさっきの女性が出てきて、僕の元に駆け寄る。身長は僕より少し高い大人の女性だ。ブラと同じく胸の存在感が凄いな。


目のやり場に困るけど、ジロジロ見ないようにしないと。


「ごめんね、迷惑かけちゃって」

僕を気遣う女性。


「気にしないで下さい。…これ、お返しします」

急いでブラを返した。


「ありがとう。…ねぇ、君の制服、のだよね?」


「そうですけど…?」

このマンションは高校近くだからわかるのかな?


「実は私の娘も、保坂高校に通っているの。君と同じで今年入学したのよ」


身長で1年だと思われたか。

間違ってはいないけど、悔しいなぁ…。


「君のクラスに『古賀』という女の子はいるかしら?」


「古賀さん…? 古賀千夏こがちなつさんが同じクラスですが?」


「その千夏ちゃんが、私の娘なの。君と同じクラスなんて、偶然ね~」


「そうですね…」

さっきから古賀さんのお母さんと話してるけど、何か忘れてる気が?


「君、登校時間大丈夫? 千夏ちゃんはだいぶ前に登校したけど…」


…そうだった。僕は遅刻しそうだったんだ。


「遅刻しそうでした。教えてくれてありがとうございます」

ぶっちゃけ、もう間に合わないけどね…。


とはいえ、急ぐに越したことはない。


「最後に1つだけ。君の名前を訊いても良い?」


今までの話で、女性は古賀さんのお母さんであることが分かった。

それなら、僕も名前ぐらいは言うべきだろう。


今村玲いまむられいです。…では」

僕は古賀さんのお母さんに頭を下げた後、再び学校に向けてダッシュした。



 遅刻が確定した僕は、校門前で生徒指導の木村先生に怒られた。

予想以上に遅刻仲間がいたなぁ…。


その結果、朝のホームルームの途中で教室に入る事に…。クラスメートが見てきて恥ずかしいので、早歩きで自分の席に向かい着席する。


「今村。遅刻して聞けなかった部分は、誰かに訊いておきなさい」

担任の高橋先生が僕に言ってきた。


「はい。わかりました」

後で隣の人に訊いておこう。



 今日はゴールデンウィーク明け初日なので、ホームルームのみになる。

午前中で帰れるけど、今は休憩時間だ。


「今村、ちょっと良いかしら?」

自席でぼーっとしている僕に、女子が声をかけてきた。


声の主を確認すると、古賀さんだった。

今まで話したことないのに、何の用だろう?


「古賀さん? どうしたの?」


「実はさっき『千夏ちゃんと同じクラスの今村君って子に助けてもらっちゃった♪ お礼を言っておいてくれる?』というメッセージが母さんから来たの」


あの程度でなんて言わない気が…? 義理堅い人なのかな?


「もしかして、今日遅刻したのって、母さんが関係してる?」

古賀さんが不安そうに訊いてきた。


半分そうで、半分違う。確かにブラの件がなければ遅刻しなかったけど、そもそも僕が寝坊しなければ済む話だったんだ。古賀さんのお母さんを責める資格はない。


「………」

どう言うべきかな~?


「その沈黙は、無関係ではなさそうね。母さんが迷惑をかけてゴメン」


「気にしないで」

面倒だし、この件はこれで解決ってことにしよう…。



 「…それで、母さんはあんたに何をやったの?」


「え?」

ちょっと待って。あのブラの件を話せと?


「何が起こったか気になるじゃない。…別に悪い話じゃないんでしょ? 話しにくいこととは思えないけど。今村は助けた側なんだし」


古賀さんが追及してくる。…仕方ない、話すか。


「ふ~ん。ベランダの外に落ちた母さんのブラを拾ったのね…」


「古賀さん、信じてくれるの?」

嘘みたいな本当の話だからな…。


「一応だけど。もし嘘を付くなら、もっとマシな嘘を付くでしょ」


確かにそうだな…。


「今村。母さんのブラを拾った時、ドキッてした?」

古賀さんがとんでもないことを言ってくる。


「する訳ないでしょ!?」

正直な気持ちを話したら、ドン引きされるよな…。


「ホントかな~? 娘のアタシが見ても、母さんは胸が大きいのよ。男のあんたはくぎ付けじゃないの?」


からかうように言ってくる古賀さん。


「…気にはなったよ」

つい本音を言ってしまった。…大丈夫かな?


「最初から素直に言えば良いのに…。アタシ、嘘は嫌いだからさ」


「今度からはそうするよ」


彼女、思ったより気さくな感じだな~。ブラの件があったから、話すことができたんだ。古賀さんのお母さんに感謝しよう。



 休憩時間が終わり、ホームルームが再開される。開始早々、高橋先生は席替えを提案してきた。GWゴールデンウィーク明けで気分を一新させるためだそうだ。


多くのクラスメートが賛成したので、行うことになった。


くじ引きの結果、僕の隣になったのは古賀さんだ。


「隣は今村か。なんか縁があるわね、これからよろしく」


「こちらこそよろしくね、古賀さん」

これからも色々話せると良いな。



 …ホームルームが終わったから帰れるぞ。

帰る準備を済ませ席を立った時、隣の席の古賀さんに声をかけられた。


「どうしたの? 古賀さん」


「ちょっと話があるんだけど、時間ある?」


「あるよ」

立ちっぱなしは疲れるから、着席するか…。


「実はホームルーム中に『今村君を家に誘って欲しいの。お願い♪』って連絡が来てたのよ」


古賀さんはそう言って、携帯を僕に見せてくる。…本当にそう書いてあるな。


「朝の事なら、全然気にしてないよ」

ブラを拾って待っただけだ。特別なことはしていない。


「今村を誘いたいのは、それだけじゃないみたい」

彼女はさっきのメッセージをスクロールして再び見せてきた。


『今村君、可愛いから仲良くしたいの♪ 千夏ちゃんと同じクラスだし、これから学校で会うかもしれないじゃない♪』


そう書かれている。仲良くしたいは納得できるけど…。


「僕が…可愛い?」

そんな事、誰からも言われたことないぞ…。


「母さんが『息子と娘が1人ずつ欲しい』って言ったのを聴いたことあるのよ。今村を息子と重ねてるのかもね」


僕を息子として見ているのか…。悪い話じゃないな。


「来たくないなら正直に言って。そう連絡するから」


家にまっすぐ帰っても誰もいないしな…。寄り道するのは問題ないけど、昼前だからお腹が鳴る可能性がある…。


「古賀さんの家に寄るのは構わないけど、昼を済ませてからで良いよね?」

それなら心配事はなくなる。


「昼なら、母さんが何か作ってくれるでしょ。母さんだってそれをわかってるから、今村を誘ったんでしょうし」


そう言うって事は、古賀さんの帰宅時間をお母さんは知っていることになる。


「昼をごちそうになるのは、さすがに悪いよ…」


「それは、誘われた今村が気にする事じゃないの!」


そういうものかな…?


「……母さんに『今村を連れて帰る』と連絡したわ。早速行きましょうか」


古賀さんが席を立ったので、僕も合わせて立つ。


女子の家って初めてだけど、大丈夫かな…?

僕は古賀さんの後に続き、教室を出た。

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