第21話 肺活量対決にゃー


 とりあえず順番が決まり、各自10分間の発声練習が行われた。


「うにゃあ……出来る気しないにゃ……」


私は何回か試しで図っているのだが、15秒くらいで限界が来ているのだ。

周りを見ると、確実に30秒は余裕で超えている。

絶望の淵に立たされていると、ついに対決の時間が来てしまった。


「それではロミさんから行きますわよ!!」

「任せなさい!!」


念の為公平を期すために、ミシュがタイム係として真ん中に座る。


「3!2!1!はい!」


ミシュのカウントに合わせて!ロミが発声する。

その声はとても堅実で、真面目に聞き取れる。

それと思っていたよりも、かなり高めの声をしている。


(ライブで少し聞こえただけだにゃ……こんな声しているにゃんて……)


私は目を丸くする、どうやら周りもここまでじっと、聞くのは初めてらしい。


「はあ……はぁ……」


ロミが息を上げ下を向く。

肝心のタイムはと言うと……


「凄い!1分20秒!!」

「はあ!?飛ばし過ぎではありませんの!!?」

「少しいいでしょうか?私このままもう3回続けてしたいです……間が開くと声が出なくなりそうで……」

「だったら皆もそうしましょ」

「了解にゃ!!」


ロミの提案に、もう3回一気に計ってしまおうという結論になった。

ロミはその後さらに記録を伸ばし、なんと3回目には1分50秒まで伸びていた。


「次は私かぁ……シャーリン、タイムお願い」

「任せるにゃ!!」


ということでミシュが前に立つ。

私はしっかりとタイマーを持つ。

ここでミスる訳には行かないのだ。


「3!2!1!はいにゃ!」


ミシュの声が響き渡る。

透き通ったような滑らかな声、それに混じって、少し寂しさや悲しさも入っている気がする。


「まぁ~可愛い透き通る声ですわ~」

「なんですかこの声……」

「わたくしこの後自信ないですわよ!」

「3番目は私ですわ~」

「ミシュすごいにゃ……」


そうあまりにも綺麗すぎる声に、私たちはついつい聞き入ってしまう……

タイムは40秒で少なめだったが、ついつい私は拍手をする。


「凄い声にゃ!感動したにゃ!」

「え~??もう!どんどん行くよ!」


ということでさらに、2回とも計測を終える。


「1回目40秒、2回目42秒、3回目48秒にゃ!」

「素晴らしい声でしたわ~」


周りからもパチパチ……拍手が起こっていた。

気付いたらほかの組達が、観戦に来ていたようで。


「凄い声でしたよ!!?なんですか今のは!!?というか何をしていたのです??」


と上から飛んでくる。

あのうさぎ族だった。


「うにゃあ!?あなたはあの時の……」

「申し遅れました!私ピョリンです!」

「ピョリンさんですわね……今ちょうど肺活量対決として、発声のタイムを計っているのですわ」

「そうでしたか!!ぜひとも録音……」

「ダメに決まってるでしょう」


ピョリンの後ろから1人現れるとそのまま腰を担ぐ。

そしてそのまま歩いていってしまった。


「私の推したちの声があぁ―!!」

「はいはいここで聞きましょうね~」


私達はその光景に唖然としながら、エリの顔を見る。


「とりあえず!もう1回ロミさんからして、私とシャーリンさんだけ3回でしますわ!」

「やっぱりそうなるよねぇ……」


ミシュがいやいや言うも、結局ロミからまた始まった。


「2人のタイムはそのままだにゃ」

「いいですわ!!次は私ですわね!」

「私を忘れていますわ~!」

「そうにゃ!スライさんどうぞにゃ!」


ということでスライが前に立つ……がどうやら目が泳いでいる。


「人多いですわ~」

「大丈夫ですわよ、1年生と音響係しかいませんわ」

「行くにゃ~3!2!1!はい!」


スライが声を出す……その声とその姿はまるで……あの姿を思い出した


「天使にゃ……」


私はついつい声に出してしまう……そう本当に天使のように綺麗でかわいい声をしているのだ。

ミシュと似ていると思ったのだが少し違う。

どこか優しさを含んでいる声だった。


「1回目55秒!2回目1分!3回目56秒にゃ!」

「ええ?エリさんが遅くないとここで最下位確定!!?」


ミシュが叫ぶと、エリは自信満々に前へ行く。


「まいりますわよ!!」

「3!2!1!はい」


さすがエリの声はとても力強く私たちの中では1番の声量だった……のだが


「……1回目30秒……2回目……45秒……3回目……40秒にゃ……」

「どうしてですのおおー!!?」

「でも声の大きさは、良かったと思うにゃ」


周りからも拍手が起こる。そう本当に声の大きさは強く本当のアーティストかと思ったのだ。

そうして私の番が回ってきた……なぜか一層視線が集まったのは、気のせいだろうか……


「シャーリンの声は今回初めて聞く人多いからね……仕方ないと思うよ」


ミシュがフォローを入れてくれる。

しかし私はどうしても、一歩が踏み出せなかった。


「がんばれー!」


と後ろから声が聞こえる……私を応援してくれているのだ……


「よし!行くにゃ!」


ということで私は前の石に立つ。

目の前には1年生全員が立って、私の方を見ていた。


「頑張ってね!3!2!1!はい」


私は精一杯声を出す。

喉が痛い、でも長く続けないといけない。


「凄い声……なにこれ……」


私は目を閉じているも、そんな声がちらほら聞こえる……

息が苦しい。


「確かに……すごく綺麗な声です……でも前に微かにですが……聞いた声と少し違いますわよね……??」

「あの時はもっと感動するような……ゾクッとするような……何もない空間に行ってしまうような……何とも言えない美しい声でした……今は何か……無理しているような気がします……この声でも十分綺麗なので……あの時の声は、やはり打ち込みだったのでしょうか?」

「この声でも感動するというのに……まだ違うの?」

「私はこの声大好きですわ~」


私は1回目ギリギリまで引き延ばす……


「はぁ……はぁ……」

「50秒ですわ!」

「にゃー!?もっと長いと思っていたにゃ!!」

「でもすごくいい声だったよー!!私感動した!!」


見ている別の組から声が上がる。

他の組にまで応援されるなんて、昔の世界では無かったこと。


「じゃあもう1回行くにゃ!」


ということで2回目……を挑んだのだが……やはりスタミナが足らないのか55秒だった。


「うにゃぁぁ……はぁ……はぁ……」


私は息を切らしながら地面を見ていた。


「シャーリン、あの時のライブのように歌えますか?そうしたらもっとすごくなると思いますよ?ライブの時に聞こえたあの声は。

すごくきれいで泣きそうになる声でした。

打ち込みを依頼していたのであれば、今のままで大丈夫ですが」


ロミが私の方に歩いてくる。

一瞬なんのことか分からなかった。


「前のライブってなんにゃ?」

「シャーリンさんの初ライブじゃない??今言ってた打ち込みとかいう噂の……」

「えー??あれ?私絶対プロ歌手の打ち込みだと思ってた……もしもシャーリンの声だとしたら……」


と何やら前から声が聞こえる。

さっきよりも一層ざわついているようにも感じる。


「……?まぁ……やってみるにゃ」


ということで再び目を閉じる。

深呼吸して思い浮かべて……


(あの時のライブの感覚を思い出すにゃ……あの時は私は曲が分からず……合わせるのに必死だったにゃ……でも楽しかったにゃぁ……そっか!)


私は準備完了の合図として、右手を挙げた。


「3!2!1!はい!」


私はライブの感覚を思い出し声を出す。

答えはもうでたのだ。


(私自身楽しめたらいいんにゃ!!)


「これは!?なんですの……声が全然違いますわ!確かにあの時、ライブで聞こえたのと同じですわ……」

「わぁ~言葉にできませんわ~すごすぎますわ~」

「シャーリンって、こんな声出せたんだ」

「やはりあの時の微かに聞こえた……ものすごく高い声は、シャーリンだったのですね……とても美しい声です……」


その様子を見ていた周りの組も、目を丸くして聞き入っていた。


「え?え?あの声本気??すごいんだけど……」

「私達あの子とライブ対決するの??」

「打ち込みじゃなくて、本当にシャーリンさんの声だったんだ……」

「最高です~~~推しが増えます~~はぁ~~尊い~~」

「落ち着きなさいよ……ピョリン……」


私には、周りの声が聞こえていないが。確かに思うことが1つだけあった。


(歌うって……凄く気持ちがいいにゃ……それに先ほどと比べて疲れないにゃ)


ということで私は限界まで出し切った。

目を開けるとそこには、涙を流している皆の姿があった。


「シャーリンさん……」

「にゃにゃ!!?にゃんで皆泣いてるにゃ!!?もしかしてダメだったにゃ……?」


しばらく沈黙があると周りから大拍手と、大歓声が巻き起こった。


「「「「最高だったー!!」」」」

「にゃにゃ!!?」

「おめでとうシャーリン!2分40秒でシャーリンの圧勝だよ!」


ミシュがタイムを見せてくれた。


「やったにゃああ!」


私は嬉しさで、ついつい4人に抱き着いたのだった。

周りからも沢山の拍手をいただき、楽しい肺活量対決となったのだった。

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