第13話 6-3.店での日々が過ぎて行く

 店長は店舗内のバックヤードで魚を捌いており、野菜の作業場へはたまにしか顔を出さず、和彦のことは溝口さんに任せていたが気にはなっているようで、時々見に来た時、溝口さんに何やら聞いている。

 溝口さんは和彦のことを何やら褒めて、プッシュしているようだ。

 和彦は他のパートさん達からは少し浮いた感じで、黙々と作業していた。野菜のこともあまり知らず、この店に来て初めて見て覚える野菜も多かった。


 午前中に店出しのかなりの部分は終わり、午後からは補充と片付けなのでパートの人数も少なく、社員の障碍児と和彦と、パートさんもう一人か多くて二人ぐらい、あとは野菜担当新入社員がいるだけだった。

 今年大学を卒業したばかりの新入社員・青山君はパートさん達とも言葉を交わさず黙々と作業をしたり、ノートパソコンに向かって表を作ったりしている。

 和彦も彼とは何を話せば良いのか分からず、一緒に作業をしていても、彼の指示は小声で聴きとれないことが多々あり、和彦も普段からボソボソした口調なので、互いが互いの言うことを聴き取れず、何度も聞き返しながら仕事を進めることになる。

 ある日、和彦が青山君に作業内容についての質問をした時、二度聞き返され、そばを通りがかった、面接の時に和彦を案内しながら早口でまくし立てた女性社員の中根さんが、

「大きな声の出せへん人や」

と独り言を言った。

 中根さんは独り言も早口だが大きめの声で言う。お菓子や調味料の担当で、野菜の作業場の隣にある倉庫から、よく独り言が聞こえる。自分では聞こえていると思っていないのか、大きな声を出そうと思っても出ない和彦とは対照的で、元気で明るい店員さんとして、重宝されている。


 和彦はアルバイトを始めたばかりの頃は五時に上がっていたが、最近は閉店後の八時半から九時頃まで野菜の作業場に居るようになっていた。片付けながら、溝口さんの話を聴く。この店で和彦が心を許せる話し相手は年配の溝口さんだけと言える。

 溝口さんはことあるごとに、それぞれの野菜の来歴を語る。

 今の季節、店頭に並ぶ野菜は、なす、ピーマン、トマト、とうがらし、の夏野菜、小松菜、ほうれん草の葉物類、じゃがいも、玉ねぎ等の土物。

 なす、トマト、じゃがいもなどナス科の野菜は南米原産で、もともと高地に適した作物だった。

 カラカラの岩場で水も与えず糖度の高いトマトを育てる農法があるが、原産地のことを考えると、理にかなっている。

 溝口さんは、バナナ等の果物についても一家言あった。

 バナナの北限は沖縄で、島バナナと言われる沖縄のバナナはとても小さいが、南へ下るほど大きくなる。確かに南インドのバナナは大きかったな、と実感を持って和彦は溝口さんの話にうなずくので、溝口さんの話も熱を帯びる。


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