第14話 7-1.東欧で共に過ごした旅行者と京都出町柳で会う

 ハンガリー・ブダペストの日本人宿で二ヶ月ほどを一緒に過ごした葛西さんから不意に連絡があり、出町柳駅前のロッテリアで、仕事のない午前中に会うことになった。


出町柳駅は京阪電車の大阪側からの終点であり、叡山電車の始発でもある。

 以前は京阪電車が三条で止まっており、叡山電車も単なるローカルな一両編成のボロい電車に過ぎなかったが、出町柳までつながったことで、駅付近も一気に都市化した。

 叡山電車の車両は新しいデザインを取り入れ、大阪方面から京都の北の方の鞍馬や貴船へ行くのに便利になり、新しい観光客も増えたという。

 この辺りは以前から京大に近いこともあり京大生が住む安い賃貸アパート、マンションが多く立ち並んでいる界隈でもある。

 和彦が小、中学生だった頃、この辺りを行き交う京大生達は、まだ学生運動の名残もあったのか、何とも言えず垢抜けない空気を漂わせていたものだが、今や地方から京都へ来た人が多いと思われる京大生達は皆、同じような良家の子女揃いに見え、和彦が年を取ったせいか、顔つきや自転車を漕ぐ姿などが、子供のように幼く映る。


 ハンガリーの首都ブダペストは、アジア並みに物価が安い割にヨーロッパの都市ということもあり、街が清潔かつ便利で、アジアからヨーロッパへ陸路で渡ろうとしている長期旅行者にとってはオアシスのような所だ。

 街唯一の日本人宿には常に日本人旅行者がひしめき、宿主は定員に関係なく泊まらせるのでベッドが足りず、床に自前の寝袋で眠る旅行者が多かった。

 床に寝ると宿代が四分の一で済むので、皆、床で寝たがり、夜になると「床争奪戦」と称して、トランプなどでその日誰が床で寝て誰がベッドで寝るか、を決めた。


 和彦はブダペストを拠点に、ヨーロッパを旅行した。 

 西欧を旅行すると、宿代、食事代、移動費が日本並みに高いので、のんびりとは出来ず、寝るのは夜行バスが基本だった。

 朝、街に着いて夕方までうろつき、夜には次の町へのバスに乗り込む。宿代の安いブダペストに戻ってようやく少し落ち着ける。

 和彦はアジア方面からブダペストへ入って来て、一ヶ月ほどゆっくりしながら西欧の旅行情報を集め、ユーロラインバスの三十日間乗り放題のパスを購入、それを使って一カ月西欧をほぼノンストップで回り、ブダペストへ戻って再び一カ月ほど滞在し、疲れを癒した。

 西欧を回る前の一ヶ月、回った後の一ヶ月、常に葛西さんと一緒に、宿に居た。

 和彦は西欧を回ったが、葛西さんはその間、東欧を回ってまたブダペストへ戻ったようで、互いに情報交換し、一カ月後、葛西さんは西欧へ、そしてアメリカへ、和彦は東欧から中東へと出発した。


 アメリカを回った後、昨年日本へ帰って来た葛西さんは、しばらく大阪の実家に身を寄せ、アルバイトをしてお金を貯めていたようだ。

 今日は大阪から京都の出町柳まで、400㏄のバイクに荷物を括り付けて、来ていた。

 これからバイクで北上を始め、夏までには青森へ着き、ねぶた祭りへ参加する予定だ。

 最終的には北海道へ行って、仕事を探すつもりでいる。何をするかは、決めていない。また海外へ出るかも知れない。アメリカは良かった、アラスカの大自然が良かった、できれば北海道から、ロシアへ渡りたい。エスキモーの生活に興味がある…。

 葛西さんは日本には居るが、未だ旅を続けている感覚で、今後のことについて語る。

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