第7話 4-1.中東で会った女性と大阪で再会する
自然食品店で一週間働き、二回目の木曜日、定休日を迎える。
シリアやイラン、パキスタンの宿でともに過ごし、一緒に国境を越えた彩さんが、アジアからアメリカ大陸へ渡って南米まで行く途上、日本の関西空港でトランジットする、との連絡が入っていた。
大阪に実家があるのだがそこへは寄らず、旅行中に知り合った彼氏の元へ泊まる、と言う。メールでやりとりしていたが、時間があれば会いましょう、とのメッセージを送ってきた。
待ち合わせ場所の大阪・梅田へ、家から河原町駅までは四十分ほど掛けて歩き、阪急電車に乗って行く。
ビッグエッグ前で和彦が待っていると、階段を走り降りて来る、回りの人達とは明らかに雰囲気が違う、異様、と言えなくもないつぎはぎだらけの服を着た女性が目に入る。
多くの長期旅行者は、バックパックに最低限入るだけの衣類を着回している。裁縫が得意な彼女も、破れた服に当て布をして、自分なりに修繕しながら着ている。
物のないアジア諸国では当たり前のことで、旅行中の和彦から見ると彼女の着こなしはオシャレにも映っていたが、場所がアジアの空から梅田の繁華街へ移ると、ちょうど彼女がいる部分だけが回りから浮き上がっているように見えた。
と同時に、自分や自分達は一般的な日本人の一人だと思っていたが、回りの日本人達とはあまりに異質な彩さんの姿に、自分もこんな風に見えているのか、と和彦は愕然とした。
シリア北西部にある地中海沿いの小さな町・ラタキアのドミトリーに長期滞在していた彩さんと同室になった当初は、和彦は日中一人で行動し、彩さんは部屋にいて、夜に色々な話をする間柄で、そのうち、彩さんがずっとドミトリーから動こうとしないのを良いことに、和彦は彩さんに荷物を預けてシリア国内を小旅行に出掛けたりした。
イランのテヘランで再会した時は、二人で食事や観光へ出たりした。
イスラム圏を女性が一人で旅行するのは現地人の好奇の目にさらされるなど危険も多く、男女一緒の方が移動しやすい。
和彦と彩さんはイランからパキスタンへの国境を一緒に越え、パキスタンのクエッタ、ラワールピンディ、北パキスタンの山岳地帯フンザ、と一緒に移動し、部屋もシェアした。それでいて、男女の仲にはならなかった。旅行中に会った彼氏がいる、と言う彩さんに対して和彦が自制していた部分があったかも知れない。
世界各地に、宿泊客はほぼ日本人ばかり、という「日本人宿」がある。日本人旅行者の間で口コミによる評判が広がり、自然に日本人客ばかりになっていく宿が多い。中には、欧米人が来ると日本人の居心地が悪くなるので日本人以外泊めない、という宿や従業員の多くが日本語ペラペラの宿もある。
イスラエル宿や韓国宿もあるようだが、日本人宿は、多い。アジア、ヨーロッパ、中東、どこへ行ってもある。和彦が彩さんと会ったシリア・ラタキアの宿は「日本人宿」ではなかったが、シリアやヨルダン、イラン、といったイスラム圏は欧米人の旅行者が少なく、長期旅行する外国人は日本人ぐらいなので、日本人宿のようになる。
日本人旅行者はそうした宿を渡り歩いて旅の情報を得られるために現地の言葉や英語ができなくても何不自由なく旅行することができる。
彩さんは日本人宿泊客がほとんどのドミトリーに長逗留しながらも、英語も堪能で、たまに欧米人旅行者が宿に来れば会話を楽しみ、宿のスタッフとも英語で世間話をしていた。また、シリアやイランで、現地語を挨拶言葉ぐらいは、と覚えようとしていた。
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