第8話 4-2.公園で子供に「おっちゃん」と呼ばれる
梅田で待ち合わせしたもののお互いお金を持っておらず、喫茶店に入るなどということももったいなく思え、会うなり、ぶらぶらと当てもなく歩き出しながら、彩さんはバンコクからトランジットすることになった経緯や数日間の日本滞在中の予定、日本からロスを経由して中南米を旅行するに当たっての展望、北パキスタンで別れて以降の出来事、互いの共通の知り合いである何人かの旅行者の消息を伝え、和彦は帰国後の実家や自然食品店での日々などについて、旅先の宿での話の続き、といった感じで、夢中になって話した。
闇雲に歩くうち、どちらかと言うと人ごみよりも人の少ない場所を選ぶ二人の習性で、気が付いたら梅田を離れ、中津まで来ていた。
そろそろ昼食の時間帯になったが、旅行中もそうしていたように、どこかで買って屋外に場所を見つけて食べる方が安上がりなので、コンビニへ入って安いパンを買い、公園があったので入って行き、ベンチがないのでジャングルジムに座って食べた。食べた後もジャングルジムで話を続けていると、小さな男の子の声がする。
「おっちゃん、どいて」
和彦が振り向くと、三、四歳くらいの子供がニコニコ笑いながら、ジャングルジムに居座る和彦に訴えている。その後方で、二十代位の若く色の白い母親が、済まなさそうな笑顔で、
「これえー。すいませーん」
と子供に叱りながら和彦に謝る。
和彦も、おっちゃんか…、と苦笑しながら、ジャングルジムから離れる。
彩さんも笑っていた。
店にも入らないで話し続けるのは時間が持たなくなってきたのと、彼女と長い時間を過ごすのは彼氏に悪い、という意識も働いて、三時頃、梅田近辺へ戻って来てから、和彦は、じゃ、元気で旅行を続けてな…、と切り出す。
彩さんは少し意外な表情をして、しかし、そのまま、手を振った。
彩さんと別れた和彦は阪急五番街や梅田駅周辺をぶらつき、パソコンコーナーなどを覗き、無料で使えるパソコンはないか、物色する。
旅行中会った人達との連絡は、和彦の実家から近いNTT支店にあるパソコン無料体験コーナーへ通い、フリーメールにログインして取っている。
旅行中に作ったメールアドレスで、世界各地のネットカフェから連絡を取ってきたのと同じようにしているが、日本ではパソコンを各自購入して自宅に置いて使う人が圧倒的多数で、アジアやヨーロッパに比べてネットカフェの数が少ない。
和彦が見た限りではパソコンを展示してあるばかりで、メールソフトを無料でいじれる場所はなさそうだった。使えるお金もなく、手持ちぶさたになった和彦は、早めに京都へ帰ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます