第5話 2-3.自然食品店でアルバイトを始める


 面接の翌日、午後から店へ行き、挨拶すると、店長は和彦が来たことに意外な顔をして、野菜の作業場へ行くように指示した。

作業場では主婦のパートさんが教えてくれた。

 じゃがいもや玉ねぎ等を袋詰めして店舗へ運ぶ仕事だった。この店は知的障碍者を雇用して補助金をもらっているようで、二十代の、知的障碍のある男性社員と、ボランティアの、十八歳だが小学生くらいにしか見えない男の子に混じって、和彦は袋詰めをした。

 パートさんの他に年配の男性がいて、野菜についてや、スーパーについてのうんちくを話しながら指導してくれた。あちこちのスーパーを渡り歩いているようだ。

 溝口、というその男性から、履歴書見たぞ、と和彦は声を掛けられた。

 溝口さんは二十年ほど前に東南アジアのタイやラオスあたりに買い付けに行った経験があり、メコン川流域の人々や、当地の野菜、農業について、話す。和彦も旅をした東南アジアの国々の情景が蘇り、興味深く話を聴きながら、作業をした。


 初出勤が水曜日、翌日は木曜日で店は定休。

 和彦は久しぶりに働いた余韻を噛みしめながらも、店長からは一言も声を掛けられなかったことで、いつクビになるか分からない感じがし、また、時給が安いことにも引っ掛かり、安穏と休む気が起こらず、自転車でハローワークへ向かっていた。

 職安、と呼ばれていた頃、東京で、何度か行ったことがある。当時は手書きの求人票を一枚一枚めくっていた。今も求人票のファイルはあるが、同時に、パソコン端末がずらりと並び、たくさんの人がモニタの前に座って仕事を探している。知らないうちに時代は変わっていた、と和彦は衝撃を受けるが、旅先でメールアドレスを作り、メールのやりとりぐらいはできるようになっていて、パソコンの操作が分からないわけではないので、パソコン端末での求人閲覧を申し込んだ。

 端末に、年齢、希望条件等を入力して求人を見てみる。目ぼしい求人は見つからなかった。三十歳を過ぎると、やはり難しい。


 ハローワークからの帰り、和彦が自転車で堀川通りを走っていると、広い通りの向かい側の歩道に、自転車に乗った、短めの半袖から出た真っ白い腕や、膝上数センチ程度のスカートが春風を受けてめくれ上がった脚を露わにして走る、大学生風の女性が目に入る。

 和彦が日本へ帰って来たばかりの四月下旬頃はまだ肌寒さがあったが、徐々になま暖かい風が吹いてくるようになってきている。

旅の後半はイスラム教の国やインドに長くいた和彦にとって、女性が肌を露出して街を行く様子を見るのは久しぶりだった。


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