第2話 1-2.帰国後の生活場所は

 帰国しても、まともな就職などできないだろう、と和彦は思っていた。

 長期旅行者が日本へ帰ると、沖縄の離島の砂糖きび工場で働いたり、北海道の鮭缶詰を造る工場で働いたりする、との旅行者どうしの噂話を耳にしている。直接の知り合いはいないが、現地へ行けば何らかの情報は入ると思われる。ともに季節が限定された労働で、沖縄と北海道を行き来している人も多いようだ。

 そうするにしても、まずは京都の実家へ帰り、日本を不在となる間、一切の税金、社会保障費が掛からないように抜いていた住民票を入れ、その上で、今後どうするか、どこに住むのか、を決めようと思っていた。が、妹が結婚して家を出て行く代わりに居させてもらう、というのもありかな、との都合の良い考えが、帰国を前にして頭に浮かび、今朝、夜行バスで京都に着き、実家へ帰るや否や、妹から、これからどうするの?と問い詰められ、家に居てくれるの?との言葉が出たのに助かったような思いで、居させてもらえるんやったら…、と答える。

 妹は和彦の答えに喜び、これで私も安心してお嫁に行ける、お母さんも喜ぶ、お母さんは私が出て行ったら離婚する、とこの前もお父さんとケンカした時言うてたし、お兄ちゃん、家に居て、お父さんとお母さんを見てやって…、と続ける。

 和彦も妹からそう言われると、実家へ出戻ることが恥ずべきことではなく、良いことのように思われ、十九歳の時に家を出て以来、十二年ぶりに帰り実家で生活することへと、大きく気持ちが傾く。


 長岡京の免許センターからバス、電車で着いた河原町から実家へはお金を節約するため約一時間の道のりを歩いている。

 一年で最も暑い「暑季」に当たる四月のインドから、少し肌寒い京都へ帰って来て、歩きながら、街を眺める。

 インドでは排気ガスが黒く可視化されていたが、京都の大通りを多くの車が行き交う風景に排気ガスは見えず、無臭で、音も静かだ。異常にきれいなアスファルト上に整然と、何のトラブルもなく、車が走る。側道を行く自転車や歩行者も、それぞれが独立、孤立して、速やかに目的地へ向かっている。

 大気中への二酸化炭素排出量はインドよりも日本の方が多いはずだが、京都の、ビルの谷間からぽっかりと山並みが見える街の造りを背景にして、車は環境に対して何の影響も与えていないように見える。


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