第3話 老人の過去。
「あーそうだよ。金髪のニイちゃんがな?」
「ああ、親切なお兄さんでしたねー? それでアナタは此処に来れたんだから」
老人は先ほど自分を交番に連れて来た若者の事を言っている。その若者は愛菜達に簡単な質問をされた後、早々に帰宅した。
「——じゃあその人と会う前、どんな感じでしたー?」
康弘は方針を変更する。時系列ではなく、遡って話を聴く事にした。
「阿部さん、素晴らしい」
「しーっ」
愛菜を畜生と罵倒した大介だが、康弘に対してはベタ褒めするばかりである。
「ええ? ニイちゃんに会う前? そりゃあ歩いてたさ。なんせ、これから大事な商談があるんだから」
「商談?」
「そうさ、この街にな? でっけぇスーパーができんだよ! そこでよ? ウチの若えヤツら使ってやってくれってな!」
「スーパーで、使う?」
「そうなんだよ! フツーはああいうデッカいトコって提携するヤツがあんだけど、なんかまだそういうのねえって言うから、コッチから話を持ちかけようってさ!」
「へえ? それはすごいねー?」
「へへへ——」
康弘は適度に相槌を打つ。
「……どういう事?」
「どうやらこのジイさん、設備屋かなんかをやってたらしい」
「ああーなるほど。でもそのスーパーって今この街にある、イ○ン、ではないですよね?」
「そうだな。あそこにはそれ専門の部署がある。わざわざ外からは雇わないだろう——つまり、十五年前に潰れた、あのスーパーって事になるな。このジイさんの持ち込みが成功してたなら、まぁ調べようもあるが」
「そうですよねー。それにそんな昔なら、資料自体がないかも?」
「そういう事だ」
二人は老人が語るその続きに注目する。
「んでだ、色々と準備が必要だったんだよ。だが、それがない事に気づいたのさ、そう、花束が」
「花束? 商談で?」
「何言ってんのさお巡りさん。花束渡すっていやぁオンナだろオンナ。実はよく通う喫茶店……じゃねえや、カフェーによ。これまた別嬪なお嬢さんが居るんだよ。いつもこっちをチラチラ見てくるからつい俺も本気になっちまってよー? これからプロポーズすんだよ!」
「それは羨ましいねー」
話題が急に変わっても、康弘は動じていない。
「チラチラ見てくる人に、いきなりプロポーズ?」
「そういう時代もあったんだろ? 俺は知らんが」
「どうなったんでしょうね? このお爺さんのプロポーズ!」
「さあな。ただ、うまくいってたんなら、相手の名前を聞き出せば、自ずとこのジイさんの事もわかるだろう」
「確かに!」
「——その人とはお話をした事あるのかなー?」
「へっ、一度だけな!」
「ほほー? 何を話したんだい?」
「そりゃー秘密だぜ、ヒミツ」
「ええー? そんな事言わないでさー、あ、そうだ。二人はお互いを、なんて呼び合ってたのかなー?」
「お、おう。俺はあのお嬢さんの事を————」
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