夜、来る。そして寝る。
新座遊
良い子は寝る時間だよ
夜。目が覚める。
鬱病とやらで長期の休職期間に突入し、最初のうちは朝起きるように心がけていたが、そもそも鬱病には重力が重すぎて、寝床から起き上がることが苦痛だった。
テレビを見ることもなく、本も読めない。音楽を聴くのも苦痛だ。
そう、何もできない。あらゆる情報が処理しきれない暴力と化して俺を襲う。
いつしか起きているのか寝ているのかすら判断つかなくなり、あっという間に夜、ようやく起き上がることができるようになった。
医者には、とにかく散歩しなさい太陽の日を浴びなさい、と言われるが、なかなか言われた通りにはできない。能動的に行動できるくらいなら苦労はしない。
とはいえ、歩くことは必要だ、と身体のどこかが警報を鳴らす。たぶん、危機的状況なのだろう。そもそも買い物しないと飢え死んでしまう。
したがって、深夜に、散歩がてらコンビニに行くのが、ギリギリの生活パターンである。
夜来るというタイトルの小説があったなあ、と働かない脳みそが考える。いや考えることができない。したがって無思考状態の垂れ流しである。
今や人生の夜だ。何も見えず、何も解釈できない。ただ呼吸しているだけ。
それでも生きようとしている身体のあがきが、この夜の散歩なのである。
生活音のしない深夜の道すがら、聞こえるのは耳鳴りと虫の鳴き声。あとは、聞こえるはずもない動悸音。外に出るだけでなぜこうも焦燥感とパニック状態が発生するのやら。もはやこのまま暗闇に溶け込んだほうが幸せなのではなかろうか、という思いも浮かぶ。
いや、一つだけ決めたことがある。
この鬱状態のときに、何か決定的な判断をすることだけはやめておこう、という判断。発作的に取り返しがつかない選択をしたら、それこそ取り返せない。
何も考えない、という状態は、心の安寧につながる。つまり、歩くだけの生活。
夜歩くだけで、何が起きるわけでもない、ただの夜。
夜、来る。そして寝る。 新座遊 @niiza
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます