【KAC2023】深夜の散歩で起きた出来事

だんぞう

深夜の散歩で起きた出来事

「この先へ言ってはならぬ!」

 夜道で突然、老婆にそう叫ばれました。

「うわっ!」

 とりあえず俺も叫んだね。

「キャンッ!」

 うちの犬も叫んだ。そしてビビって後ろ方向へ全力ダッシュ。

 俺の左手が急激に後ろへ持っていかれたから思わずけそうになったものの、そこで踏ん張れたおかげでチビらずにも済んだ。

 しかし危なかった。

 俺はガラスの膀胱って言われてんだ。

「ひゃん!」

 もひとつ聞こえた鳴き声は――と足元を見て再び膀胱ピンチ。

 こいつぁ人面犬かっ?

 ふぅ。膀胱アラート解除。

 頭まで覆うタイプの犬用の服か。手編みでブカブカなのが弛んで人の顔に見えたようだ。

 戻ってきたうちの犬と匂い嗅ぎあってるし問題なさげって、うわっ!

 足元に小さいおじさん!

 いやいやいや、これも模様?

 手編みっぽいレッグウォーマーがずり下がって弛んでそう見えた模様――じゃなくて。

 散々ビビらせてきた犬連れ手編み老婆はそもそもどうして通行の邪魔をって話だよ。

 ふと老婆の後方へ視線を移すと、暗い夜道に街灯がスポットライトのように照らしているのは地面に四つん這いになっているコート姿の髪の長い女。

 お、落ち着け俺の膀胱ッ!

 もしかして老婆は霊能者で、俺は出遭ってはいけないものに。

「あたしの娘がね! コンタクトレンズ落としたのさ!」

 知ってた。ああ知ってたさ、そういう理由だって。

 しかし夜中だというのに声が大きいなこの老婆。

「どうかなさいましたか?」

 んあ!

 ヤバかった。

 油断したタイミングで背後から声って反則だろ。

「コンタクトレンズを落としたみたいで」

 見ると優しそうなお巡りさん。

「あー、この時間だと踏んじゃう恐れありますからね」

 いつの間にか野次馬もたくさん。

「見つけたー!」

 四つん這い姉さんの声の大きさは母譲り。

「解決したようなので本官はこれで!」

「娘が迷惑かけたね!」

 犬連れ老婆もお巡りさんも解散。

 ん?

 たくさん居た野次馬は?




<終>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【KAC2023】深夜の散歩で起きた出来事 だんぞう @panda_bancho

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ