太陽の章

カナラタ村

「? カナラタ村へ、ようこそ~」

「二度も言わなくていいです!」


ハルはバシッとネオの頭にチョップを当てた。ネオはイタタと頭をさすり、ネオを睨んだ。


「なんだよ~、じゃあ返事くらいしろよな」

ネオは両手を上にあげて肩をすくめた。


「こっちは! あなたが何も告げずにいなくなるから心配してたんです!」

「そう、ハル、ずっとそわそわしてた。いつ合流するんだろうって」


ハルの顔がみるみる赤くなっていった。口元を手で隠し、そっぽを向くものの、耳元がほんのり赤いためバレバレであった。


「おまえ……オレのこと大好きなんじゃん!」


かわいいやつ~と言いながら、両手を大きく広げ突進してきた。ハルは、げ、と言ったものの避け切れず、ぼくも抱きしめられると思っていなかったので避けれず、二人してぎゅうぎゅう抱きしめられ、顔をうりうりとされた。ハルは手でネオを退けると、ポンポンと服についた砂ぼこりを手で払い少し落ち着いてから言った。


「改めて、ここはカナラタ村です。まずは、冒険者登録の手続きを済ませてから、この後のことを考えましょう」

「うん、わかった」


ハルの後ろについていくと、急に止まったのでハルのリュックにおもいっきり鼻をぶつけてしまった。パンパンだったのが功を奏したのかクッションのように包み込んだ。


「ふぐっ」

「わっ、すみません。ユキさん大丈夫ですか」


慌ててハルが駆け寄った、自分でもすこし鼻がぺちゃんこになっていないか、さすってみたものの変化はなかった。


「うん、大丈夫」

「急に止まるなよな」


あっけらかんとネオは言った。程よい距離感で歩いていた彼は被害は無かったらしい。時折、石を蹴飛ばしすぎてあっちこっちに走っている。


「というか、なんでいるんです、

ハルは眉間に皺を寄せながら放った。


「いや~、オレ暇だからさ、ついていこうかな~って」

てへぺろなんて言いながら自分の頭をコツンと軽く叩いた。


「もう、勝手にしてください」


ハルから呆れた色がにじみ出ていた。そして、ふいっと顔を背けると、ぼくの腕をつかんで歩きはじめた。後ろのほうで、ちょっと待ってよ~と聞こえた。


いや、聞こえてないな、気のせいだ、うん。

ぼくもハルのスピードに合わせて早歩きをした。なんだか、遠くのほうでひどっ、とかいう声がするが気にしない、気にしない。



 だんだんと速度が落ちてきて、横並びで歩くと、ハルの背で見えなかった景色が見えるようになった。規則的に並べられた煉瓦造りの家々や、広場の中心にある少し存在感のない噴水、その周りに敷き詰められた色とりどりのかわいらしい花。自然に彩られた風景とは似て非なるものに感じた。


村人たちの目の色を見てみると、黒一色だった。ぼくとハルは黒じゃないから、以外といるものだと思っていた。ふと、進むにつれて周囲の人とは違う気配がした。マリーゴールドのようなひとだった。


「遅かったな」

「ただいまですかね」

「ああ、おかえり」


2人は握手を交わし、微笑み合った。言葉を多く交わさなくても、伝わるものがあるらしい。こちらには全く分からないが、とても仲良さそうであった。ふいに、ハルの手がこちらに向けられた。


「こちらはユキさんです。そして、この方はジンナーさんです。」

「はじめまして」


すこし目を向けながら、ぺこりとおじぎをした。彼は茶色がかった肌で、髪の毛は短髪で掻き上げられ、全体的に白く、ところどころ黄色のメッシュが入っている。半袖の服から見える肌からは傷跡がはっきりと見えた。


「はじめまして、ジンナーだ」


不意に、黄土色の目と合った。すると、片手を前に出しながら微笑んだので、あわてて右手を出して、その手を握った。手は大きくゴツゴツとしていて、手の平はまめで硬くなっていた。


「ジンナーさん、冒険者登録の件で……」

「あー、はいはい。言っとくが、おまえさんのは例外中の例外だからな」

「お願いします」


ハルが頭を下げたので、ぼくもまねをして頭を下げた。


「やってやるから、つら上げろ。もう二度とやらねーからよ、覚えときな」

ハルはきらきらした顔を上げて、ジンナーを見ると、ぼくに微笑みかけた。

「それから、ネオ。」


少し遠くの方で隠れていたネオがビクッと反応し、木の幹に体を再び隠した。石で遊ぶのはやめていた。まるで、イタズラをしてしまった子供のようであった。


「いつまでそう、うじうじしてるつもりだ? 人様には迷惑かけんなよ」


ネオは明後日の方をむいて、あくまでも聞こえていない体を貫いていた。ちゃんと石は足元に置いてあった。


「ったく、あいつは…」


ジンナーは頭をボリボリと掻き、はぁとため息を吐いた。ネオの方を見ると、いつのまにか居なくなっていた。石がなくなった地面を見て、こちらまでため息が出た。


「ところで、最短で何日で出来ますか?」

「はいはい、予め用意しておいたから明日には渡せるな」

「ありがとうございます、あと、一部屋貸していただけますか?」

「勝手にしろ」

「では、遠慮なく二部屋貸していただきますね」


ハルはにこやかに言い放った。


「そこは自重しろよ……」


えっ、なんて? と聞こえないふりをして、ふた部屋借りるつもりらしい。まったく、変なところは似ているなと、ジンナーは呆れながら穏やかに笑った。もちろん、ハルの足元にアレはない。


「では、ユキさん行きましょう!」


勢いよく手を引っ張られたので、ぺこりとおじぎをすると、苦笑しながらジンナーはひらひらと手を振っていた。ぼくのことはあまり気にならないのか、詮索はされなかったので、少し安心した。


 駆け抜けて行った先には腰のあたりまである茂みや、木々に囲まれ、村の外れにある二階建ての茶色いレンガの家があった。草が茂っていて、たくさんの蔦が家にしがみついている。家のすぐそばには、石でできた少しおんぼろの井戸が蔦に囲まれて、ひっそりと立っていた。花の上には黄色と青色のちょうちょがくっついては離れを繰り返した後、別々の方向へ離れて行った。


「ここは、俺とネオのためにジンナーさんから貸してもらった家なんです。」

「そうそう、オレたちのためになー」

「なんか文句あるんですか?」

「べっつにー」


ふいっと、顔を背けるとネオは先に家の中に入っていった。


「俺たちも入りますか」

うん」


 ぼくの家よりも少し心許ない茶色いドアを開けると、ギィギィと金属が悲鳴をあげた。


「一階がリビングで、二階は部屋が四つあります。」

「この階段は大丈夫なの? 抜けない?」


階段はそこそこボロボロで、ところどころ板が虫食い状態で、正直に言うと上りたくない。


「たぶん、大丈夫ですよ〜。ネオとか、駆け抜けていきますから〜。あっ、抱っこして登っていきます? そしたら、怖くないでしょう?」


顔を横にぶんぶんと必死に振った。今までで一番必死に振ったと思う。


「大丈夫ですって、ほら」


ハルは、ぼくの脇の下に手を入れようとした。

(やばい、なんとかしないと)

たぶん、顔は真っ青だ。


「大丈夫だから、1人で上がれるから。」


胸板にそっと手を当て、押しのけようとするものの、全くびくともしない。


「ひぃっ」

「ほぉら、たかい、たか〜い」


 案の定、お姫様抱っこで階段を上らされた。

(案外、頑固だなコイツ。忘れないぞ、この恨み)


ちらっと、見ると。にやにやしていた。


(絶対に恥ずかしい思いをさせてやる!)

ハルに悟られないように、心の中でぎゅっとこぶしを握った。



 そっと下ろしてもらい、家の中を見てみると4部屋あった。左右対称に部屋が配置されていた。


「階段から遠い2部屋が俺とネオの部屋です。ユキさんは、俺の隣の部屋を使ってください。」

「分かった」

「この後はどうしますか?ご飯の時に呼びますけど」 

「ううん、大丈夫。リビングでだらだらするよ」

「分かりました。食材とかはジンナーさんからいただいているので、心配しないでくださいね」

「わかったよ、ぼくは頼りないんでしょ」


(うわっ、微笑みやがったぞ。ぼくをなんだと思っているんだ。)


「フォローは!」

「ふふっ、ではまた後で」

「じゃあね」


ぶっきらぼうに答えたつもりだけど、ハルに効果はないらしい。ふん、と鼻を鳴らし来た道を引き返した。そういえば、階段……。部屋で待ってようかな。


「あっ、抱っこしましょうか?」


満面の笑みでハルが背後に現れた。

(こいつっ!)




 結局、ハルの力を借りて階段を上り下りし、だらだらしている間に夜ごはんの時間になった。ジンナーからもらった食材はすべてが新鮮で、やさいはかむたんびにシャキシャキ音を立てた。特に、トマトが自分で育てたものと比べて3倍の大きさで、かぶりつくと果汁が溢れ出た。


でも、いちばんはおにくだ。はんばーぐ?にしていて、じゅわゎ〜と肉汁が口の中いっぱいになるのがたまらない。しかも、かかっているそーす?が、トマトの甘さでとにかくしあわせだった。


 あとは、おふろにはじめて浸かった。温かくて眠ってしまい、顔がお湯に浸かり、ふごっと目覚めたときは死を感じた。まぁベットは、あまり変わらなく必要最低限のものだった。けれど、疲れていたのか、あっという間に眠りについた。




「ユキーーー!」


バタンと大きな音を立て入ってくる、空気読めないやつがいた。


「んん、なに?」

「聞いてよ!ハルについて行きたいって言ったらダメだって言われたんだよぉ〜」


大声でハキハキと喋る声のせいで、だんだんと意識がはっきりとしてきて、ネオの方を見た。


「……?、目ってそんな色してたっけ?きれい。しかも、オッドアイ?」

「え、」

ギクッと肩を揺らすと、「ハル」と今までで一番大きい声で叫びながら、階段を全速力で駆け抜けて行った。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る