第25夜 生きる理由 Ⅱ
暗い暗い何も無い空間に僕はポツンと立っていて、すぐにこれは夢だと自覚する。いつもの暗い夢、また恨みを買った人々から色々な呪いのような怨み言を吐かれるんだろうと少し気持ちが沈む。
『兄さん。』
そう聞こえた気がして振り返ると、もういないはずの少炎がこちらに歩いてきていた。
『っ?!…………少炎。』
近づいてくる少炎に伸ばした手は空を切るだけで、傍から見れば僕はまるで幽霊を掴もうとしているように見えるだろう。少炎はこちらのことなんて気づいていないように前へ前へと進んでいく。
『待て、待ってくれ少炎!!』
少炎は歩みを止めない。いつもならすぐに追いつけているはずの距離のはずなのに何故か身体が重く感じて早く動けない。焦りだけが積もるなか、足元を見てみると無数の黒い手が体に絡み付いていることに気づく。
『なんでなんでなんで!!』
『お前たちは絶対に赦さない!!』
『大炎!お前だけはぁ!!』
両親だったはずの影、僕に殺された影、売り飛ばされた人間たちの影、……僕たちに食べられた人間の影。色々な僕たちに対しての怨み。黒い呪いの手に足を引っ張られて体勢を崩し、地面にうつ伏せに倒れ込む。夢だから、いつもは痛覚なんて無いはずなのに痛いと感じる。その痛みを感じながら僕は言った。
『夢でくらい少炎と話をさせてくれよ……。』
悲痛な自分の声が脳内に響く。
(……惨めだな。自由を手に入れたくて、あいつらの言いなりになって、沢山の怨みを買って、結局は何も得られず何も為せず。)
『悔しい。』
精一杯、手を伸ばす。届かないと分かってはいても手を伸ばさずにはいられない。
(あぁ。ここは地獄だろうか。僕に神が与えた罰なのだろうか。)
すぐ近くにいるのに届かないとは、なんともどかしいのだろうか。いなくなってから、もっと正直に話していればよかったなんて思ってしまうなんて、僕は馬鹿だ。心が折れかけて、諦めかけようとしていた時。
『松明に火を灯せ。』
凛と響く少女の声。伸ばした左手を見てみると松明が強く握り締められていた。無意識に魔力を込めると松明に火が灯る。火はまるで僕を包み込んでくれる、それでいて僕を導いてくれる、そんな希望の灯りに思えた。身体に纏わりついていた呪いも松明の火に恐れを為して奇声を発しながら消えていく。
『君があの子に追いつけないのは、君の中のあの子の印象が亡き者としての認識が強いからだろう。』
森で聞いた凛と響く声。
『君が諦めない限り松明に火は灯り続ける。それがあれば君の夢は恐怖するものもなく、囚われる呪いもない。絶対に希望を、自分を見捨てるな。』
そう言い残して少女は消えていった。
夜行性のフクロウは今日も息をする 春戯時:-) @ira2BH
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