第24夜 吸血暴走
燃え続ける豪邸に、王城から駆けつけてくる兵士、砂糖に集まるアリみたいに群がる野次馬たち。その視線の先にいたのは、吸血暴走を起こして暴走した僕の弟だった。
『少炎!!』
その声は少炎には、もう届かない。少炎の今の姿はいつもの面影さえもなくなっている。
『何故だ、なんで刻印が効かないんだ!!』
『ちょっと、おかしいじゃない!!』
両親は僕たちに刻まれた刻印で、少炎の暴走を止めようとしている。
『四馬!!これはどういうことだ!』
『こ、国王陛下!』
その混沌とした場にやって来たのは、いかにも育ちが良さそうなこの国の国王だった。
『……恐れながら国王陛下、僕から状況を説明させていただきます。』
『大炎、貴方は黙って……』
『父上と母上は!僕たちの固有能力の発現が遅く爵位を剥奪されることを恐れ、前々から行っていた人身売買の少年少女たちを!』
『大炎!!』
頬に痛みが走って、その場から弾き飛ばされる。父上に殴られたのだろう。だが僕は喋ることを止めなかった。
『人間を僕たちに喰らわせました!』
全て言い切ると怪物となった弟が屋敷を破壊する音だけが響く。
『……………………四馬。』
『いえ、大炎は少し頭がおかしい子でして……。』
『僕はおかしくありません!!おかしいのはコイツらです!!!!』
『貴方!親に向かってコイツなんて!!』
『僕たちを道具扱いする貴方たちを親と認めたことは、一度もありません!!』
『な、なんだと!!』
『捕らえろ。』
国王陛下がそう言うと、兵士たちは僕の両親"だった"二人を捕らえた。
『陛下!違うのです!!』
『大炎、と言ったか?』
陛下は二人の言葉なんて聞かず、僕に話しかけてきた。
『はい。』
『あれはお前の弟か?』
『……そうです。』
『そうか。酷なことを言うようだが、大炎。お主の弟はもう助からない。』
『そう、ですよね……。』
少炎のあの症状は学園の文献で読んだことがある、吸血暴走の末期症状だった。吸血暴走。それは人間を喰らい、人間の血に適合できなかった者がなる。つまりはアレルギー反応の吸血鬼バージョンのようなものだ。
『大炎、お主の弟を止める。』
『承知致しました。』
国王陛下の命令は全ての吸血鬼にとって逆らうことのできない絶対服従権であり、それは僕にとっても例外ではなかった。
何度も何度も何度も、弟を傷つけた。何度も何度も何度も、神に祈った。どうか弟を助けてください。どうか弟を救ってください。どうか弟を僕から奪わないでください。どうか、どうか……。
「僕の唯一の家族を、弟を、少炎を僕から奪わないで……。」
祈りが神に届かなかったのか、はたまた僕が神に見捨てられたのかは定かではないが神は無慈悲だ。
僕は少炎の亡骸をずっと抱き締めていた。
(昨日の夜に僕が突き放すようなことを言ったから?……昨日まで隣にいたのに。)
僕は少炎がいなくなった喪失感と、何もできなかった自分に対する自己嫌悪に陥った。そんな僕に国王陛下は王城で働かないか、と声を掛けてくださった。だが僕はその誘いを断った。何もやる気が起きなかったからだ。これまで僕が頑張ってきたのも少炎がいたからこそであり、その動力源たる人物はもういない。僕には頑張る理由がなかった。
このまま少炎がいた国にいると心が壊れる気がして、僕は国を出ることにした。
国を出てひたすら歩いた。歩いて歩いて歩いて、歩く気力も無くなった。そうして地面に倒れ込み僕は命を終えようとしていた。あの声が聞こえるまでは。
『これから雨が降るから家に帰った方がいいよ、君。』
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