第23夜 吸血衝動 Ⅰ

今は真上に日が昇り、少し暖かくなってきた。大体の部屋はカーテンを開けて、太陽の光を部屋のなかに取り入れている。その中で一部屋だけカーテンを閉めきり、他の部屋と隔離された部屋があった。


「見つけた」


インバシオン王国の城の敷地内にある三つの塔、そのうちの一つに冥朗は向かった。


「奇炎、いる?」


蝙蝠こうもりなど夜の生物が彫ってある部屋の扉を叩く、だが反応はない。冥朗は一片いっぺんの迷いもなく扉を開けた。すると何かが冥朗を部屋のなかに引きずり込む。部屋の前に残ったのは冥朗が着けていた、眼帯代わりの黒い布だけだった。











─***─











「やっぱり無理してたんだね、奇炎」


冥朗の目の前には息が荒く、正気をほとんど保っていない奇炎がいた。部屋の中は散らかっており、まるで獣が入ってきて荒らしたみたいだった。


「…………めぃ、ろ……」


正気の沙汰じゃないな。奇炎の瞳はいつもよりも色濃い緋色だった。いつもより症状が重いのか……。


「無理しないで良いよ」


冥朗はそう言って首もとの服のぼたんを外す。すると冥朗の首もとに迷いなく、正気ではない奇炎は噛み付いた。皮膚が千切れる音がして、どんどん血が体外に流れていく。少し痛くもあるが、それよりも頭がぼーっとして意識がはっきりしない。いつもそうだ。


「…………っぃ……」


さっきよりも強く噛まれて反射的に体が反応する。ぼーっとしてきた頭で冥朗は昔のことを思い出していた。最初に僕たちが奇炎と会ったとき、奇炎は血にまみれていた。そう、奇炎は吸血鬼なのだ。あまり人間とは合間見えない種族であり、最古の種族の一つでもある吸血鬼。そんな吸血鬼は不老不死で常人離れした能力があり完璧……、と昔は思われていた。だが吸血鬼には一つ欠点があった。それが"吸血衝動"である。吸血衝動が起こると、どんな吸血鬼でも正気を失い、力を制御できない。吸血鬼は最強にはなれないが、強い種族の一つであった。


「……すぅー……すぅー…………」

「……寝ちゃったか」


奇炎にブランケットをかけ、少し離れた窓際の椅子に座る。冥朗は座ると一気に脱力して頭を押さえた、……貧血である。話を戻そう、そんな強くあまり人間と合間見えない種族である吸血鬼の奇炎が何故、ボーオ村に来たのか。理由は簡単だ。吸血鬼の王国から追放されたのだ。奇炎によると爵位を剥奪され、親は処刑、そして奇炎は国から追放された。この話をするとき、奇炎は「別に関心持たれてたわけでもなければ、逆に要らないもの扱いされてたし、ざまぁねぇな、って感じかなぁ~」とへらへら言ってはいたが実際、寂しかったのだと思う。奇炎には弟がいたらしい。名は少炎しょうえん。自分とそっくりな一歳違いの弟だったらしい。その少炎のことを話すときはいつも楽しそうだった。そんな関係が僕は羨ましいと思った。

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