第22夜 眼の色

「おはよう、冥朗。気分はどう?」

「……寿々、音?」

「そだよ~、最強の寿々音ちゃんです!」


ふふん、と胸を張る寿々音。そんな大きい声を出した寿々音の頭に見覚えのある手が、げんこつをくらわせる。


「痛ー!脳細胞が死んじゃうじゃん!!」

「病人の前で五月蝿い」

「でも叩くことはないでしょ?!三瀬帰の馬鹿!」

「いちいち五月蝿うるさい……」

「三瀬帰も十分、五月蝿うるさいぜ」

「緑樹に同意」


扉の方には腕に包帯を巻いた青樹と、松葉杖まつばづえをついている緑樹がいた。


(2人とも怪我、大丈夫?)

「あぁ、緑と」

「青のお陰で」

「「怪我は結構、治った方ですね/だな」」


息ぴったりの二人、更に絆が深まったようだ。みんなと会えて少し安心した冥朗だったが、少し違和感を覚えた。


(……奇炎は?)


冥朗のその質問にみんなが黙り、部屋の空気が下がるのを肌で感じる。


「奇炎、は……」

「生きては、いる。一ヶ月前までは意識もあった」


冥朗は察した。これは咲真の家にいたときもあったことだ。


(今は隔離かくりしてる、ってことか)

「まぁ、そうだな」

「僕たちがもっと早く、着いていれば」

「…………」

(別に青樹と緑樹のせいじゃない、簡単に時雨ごときに負けた僕のせいでもある、だから……)

「大、丈夫だ……よ……げほっげほっ」


冥朗は今、喋ると咳が止まらない。


「無理に喋るな、冥朗」

「ずっと眠っていて、喋れないはずなんだから無理しちゃ、めっ!だよ?」


その事をみんな分かりつつも、冥朗の声に安心感を覚えていた。


「ちょっと冥朗、無理は禁物きんもつでっせ」

(……時雨か)

「久し振りやな、冥朗。みなさん、天正はんが呼んどるで」

「分かった。今向かおう」

「じゃあ冥朗、安静にね」


この部屋に一人になる。みんながいなくなった部屋を静寂せいじゃくが包み込む。冥朗はあることを試してみることにした。イメージをしっかりもって……


「…………永遠生命Fountain of life


緑の粒子りゅうし、光が辺りを舞う。冥朗は喉の痛みが引いていくのが分かった。


「成功、かな」


今使った永遠生命Fountain of lifeは、夢に出てきた魔法だ。自分の思い付きで夢に出てきたのか、元々知っていた魔法だったのか……、真実は定かではない。床に足を着けると、冷たい大理石の温度が伝わってくる。ふと部屋にあった鏡を見ると、自分の左眼の色がいつもより濃い琥珀色こはくいろになっていた。いや、それもあるが右眼、いつも黒い右眼が少し茶色みを帯びていた。


「なんだ、これ……」


白詰草の紋様もんようはいつも通り眼に刻印こくいんされており、少しいつもと違う独特の雰囲気をまとっている。


「まぁ、今はそんなこと良いか」


今向かうべきは、


「奇炎……」


奇炎が隔離かくりされている部屋だ。

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