第21夜 久し振りの目覚め

目蓋まぶたを開けると眩しい太陽の光が目に飛び込んでくる。冥朗は少しきらびやかな部屋のベットで寝かされていた。いつもの低血圧のせいで体は重怠く、まだ思考もはっきりしていない中、何かが自分の腹部の上に乗っているということは分かっていた。


「……ぁぅ、………ぃ」


喉が痛くて思うように声が出せない。目線を動かし寝たまま辺りを見渡す。どうやらニージオ帝国からは脱出できたようだ。自分の腹部の上に乗っている何かを撫でてみる。ふわふわな毛並み……、冥朗は即座にこれが誰の毛並みか分かった。


「…………ぇ冥」


冥朗の声にすぐ反応して、冥は冥朗の頬へと頬擦りをする。冥のふわふわな毛並みに冥朗は安心した。


*(ここからは梟の声を、自動翻訳でお送りします。『』が梟の声となります。人型になった際でも、梟のみんなの声は『』でお送りします)*


『やっと起きたな、冥朗』

「……ぅん、……ぁみ…ず………」

『分かった、水だな』


冥は人型に姿を変え、机にあったピッチャーからコップに水を注ぐ。それを机に置き、冥朗の上体をゆっくりと起こす。冥朗の背中を支えながら、ゆっくりと水を飲ませる。


「ん、ありがとう。冥」

『……これくらい当然だ』


水を飲んだことで話せるようになった冥朗だが、喉の痛みがまだ消えないことに違和感を覚える。それを察したかのように冥が口を開く。


『冥朗、お前は35日間ずっと眠っていた』

「え…………」


さすがの冥朗でもこの事実には絶句した。信じられない、だがこの喉の痛みがこの事を事実たらしめている。


(…………本当マジかぁ)

『あぁ、だから冥朗はかなり今弱っているはずだ』


意志疎通の能力、通称"以心伝心いしんでんしん"を省略して"そう"を使うくらい冥朗は、声を出すのも辛いくらい衰弱していた。起きてるのも辛いのか、冥朗はすぐに横になった。


『……お粥を作ってこよう』

(冥って料理できたの?)

『減らず口を叩いている暇があるなら、もっと自分を大切にしてやれ』

(うっ、何も言えぬ……)

『今は休んでおけ、すぐ作ってくる』

(分かった)


素直に冥の言うことを聴いて……、というか聴かなかったとしても冥朗の体力は限界を迎えていた。今日まで生きていたことが不思議なくらいである。まぁ、そこは冥たちが何とかしてくれていたんだろうが。今思えば、その間ずっと春夢と話していたのだろうか。そう考えると時の流れは速いな、とつくづく思う。そんな楽観的なことを考えていると冥が普通の釜より少し小さい釜を持って部屋に入ってきた。


『おまちどう、冥特製の山菜さんさい玉子たまご粥だ』


釜の蓋を開けると、食欲をそそられる美味しそうな匂いが鼻を掠める。木製の小皿にお粥をよそり、冥朗の上体を起こす。お粥を木製のスプーンで一掬ひとすくいして冥朗の口もとに持っていく。


『冥朗、口を開けろ』


冥の指示に大人しく従い、口を開ける。


(いただきます)


私が嚥下えんげしたのを確認すると、またお粥を掬って冥朗の口に持っていく。それを繰り返して栄養を摂取する。この玉子とお米の甘み、山菜の苦味、絶妙な塩加減……。


「美味しい……」


ほっ、と安心するような暖かいご飯。恵まれているな、そう命に感謝しながらちゃんと全て完食した。


『さて、と……。冥朗が眠っている間に俺たちはインバシオン王国の天正てんまさ王子たちのはからいで城の一室を借りている』

(ふむふむ)

『俺たちは誰も欠けることなく逃亡できたわけだが、ニージオ帝国で炎朗第一皇子が殺害された』

(?!)

『下克上というやつだ、仕方ない。こちらに情報が入ってこないから犯人は分からない』

(そうか、死んでしまったのか……)

『どうした?』

(いや炎朗皇子がこの前、野良猫にご飯を分けているところを見ていたから親近感が湧いていたんだが)

『咲真透に手を出したのに、か?』

(…………それとこれとは別問題だ)

『……意地悪な質問だったな、忘れてくれ。話を戻す、ニージオ帝国では家事の影響もあって約4900人が死んだ』

(結構、少ないんだな)

『あぁ、水朗たちが魔法を行使して火事を食い止め広範囲こうはんい治癒魔法を展開した』

(そうか……水朗は責務を果たした、見つけたのだな…………)

『あぁ、そうだな』


冥朗はその事実に嬉しくもありながら、同時に胸の辺りがチクッとした。


『報告は後だな、休め』

(え、)

『冥朗は気付いていないかもしれないが、冥朗の心がそろそろ限界だ』

(心?)

『細かいことは良い、今はとにかく眠れ』


その言葉と同時に眠気が冥朗を襲う。その眠気に身を任せ、冥朗はまた眠りについた。

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