第19夜 辛くて暗くて

「冥朗、お前さえいなければ」

「お前は無力だ」

「私の家族を返せ」

「何で僕がこんな目に」

「悪いことなんてしてない」

「そうだ、全部」

「全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブ!!」

「……お前のせいだ」


そう言われてゆびされる。


「……天朗」

「冥朗のせいで私は死んだ」


いつも僕は悪役で、ゆびされて奈落へ堕ちていく。僕だって好きで他人を傷付けている訳じゃない、こんなのは言い訳で自分を安心させるためだけの鎮静剤ちんせいざいでしかない。奈落に堕ちても眠くないしお腹も空かない、ただ体全体の感覚がなくなる。堕ちるとそれは止まることは知らずにずっと下まで堕ちていくだけ。奈落に堕ちるまでは苦しい、けれどこの堕ちている時間自体は冥朗は結構好きだった。誰も傷付けなくて良い、誰も守らなくて良い、何もしなくていい、何も傷付けなくて良い。この空間自体、冥朗の救いであったのだ。煩わしい現実から逃げられる、現実逃避できる安息の時間。先程、止まることは知らずにずっと下まで堕ちていくと言ったが、たまに下に着くことがある。


「やぁ、会えて嬉しいよ」

「久しぶりだね、春夢」


冥朗が地といえるか分からないが、底に足を着けると黒い空間が白に染まっていく。


「椅子にかけたまえよ、冥朗」

「春夢って、そんな喋り方だったけ」

「今日はそういう気分なのだ~」


春夢、正確には一場春夢という。冥朗の夢によく出てくる正体不明の女だ。姿はぼやけていて分からないが、仮面を着けていることだけは分かる。奇妙な笑みを浮かべ、泣いている仮面を。


「さて、今日はどんなことを話そうか」


いつも春夢は冥朗と喋りたがる。話すのが苦手な冥朗であっても、春夢と話すのは不思議と嫌ではなかった。

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