第18夜 過去語り Ⅲ

「あー混乱しすぎて無理やから、ちょっとタンマ。……冥朗が人間ではないと?」

「さぁ?」


冥はいたずらっぽい笑みを浮かべて松の木のうえのぼる。


「はぁ、そこは勿体振もったいぶらず教えてくれてもえんじゃないかねぇ」

「なんのことやら」


太陽も上ってきて辺りが次第に明るくなってきた。時雨はいつもは冥朗を起こしに行っている時間だ、と思い出しつつ体が段々と重怠おもだるくなっていることに気づく。


「……これ、あんたかいな?」

「そうだな、冥朗は感が良い。だが元の力が戻りつつある、他人の心が読める能力が戻るかもしれない」

「だから俺がこの事実を知っていては都合が悪い、と」

「そういうことだ、案じずとも記憶は後で戻す。俺の予想だとそうなるだろう」

「それは、どういう……」

「今は眠れ」


冥の言葉を最後に時雨は気を失った。冥が時雨にかけた魔法は"封印魔法"であり、今回は一定期間の特定の記憶を封印する、というものだった。冥はこれから起こることが分かっているようにため息をつき、時雨を後ろで背負ってその場を後にした。






──◐★◑──






冥と時雨が散歩をしに行くのと入れ替わりで三瀬帰がやっと合流した。


「三瀬帰やっと合流したぁ~。遅~い」

「お疲れ三瀬帰」

「あぁ、すまない。ここの小屋に来るまでに少し寄り道してきた。青樹もありがとうな」


青樹は目線だけは絶対に三瀬帰の方へ向けはしないで奇炎の治療に専念する。


「うん」


奇炎の傷は思ったより深く、傷を治すのにもう少し時間がかかりそうだった。らちが明かないな、そう思った青樹は自分の相棒を呼ぶ。


あお


すると1羽の梟が入ってきた。


「なんだ、青樹

「復活したてて悪いんだけど、奇炎を治すの手伝ってくれないかな」

「お安いご用だ」


青は人型に姿を変え、青樹の隣に胡座あぐらをかいて座る。青は名前の通り青い透き通ったような髪に、青いサファイアのように綺麗な目をした女の子だった。梟は主と性別がついになるよう契約をすることになっており、人型になるときは和洋折衷わようせっちゅうのそれぞれの服を着ている。


「青ちゃんって、正座とかしないの?」

「正座は血流が悪くなる、胡座あぐらは血流にもほとんど影響はない尚且なおか骨盤こつばんも曲がらないから、そうしてる」


ちょっとした豆知識を披露ひろうしながら奇炎の治療をサポートする青はまるで看護婦かんごふのようだった。


「え、そうなの?!初めて知った……」

「はっ、相変わらず馬鹿だな」

「…………」

「……っ?!」


寿々音を煽った寿々はきちんと寿々音にストロングパンチ(o゚∀゚)=○)´3`)∴を顔面にらい床でもだえている。その様子に爆笑する緑樹、必死に笑いを堪える三瀬帰、それどころじゃない青樹と青……、という風に小屋は混乱カオス化していた。そんな幼馴染みたちであるが内心はみんなが生きて揃えたことはかなり嬉しいのである。ボーオ村の出身である以上は、いつも死とは隣り合わせである。気を抜けば情報が漏れ、魔女狩りのようにはりつけにされるかもしれない。それは各自の自己責任であり、今回の騒動も(必要だった作戦を除き)、自己責任で自由行動であった。つまり誰かが死んでいた未来も存在したということだ。その事態を回避できて嬉しくない者はここにはいないであろう。


「戻った」


そう扉を開けて入ってきたのは時雨を背負った冥であった。その光景にトドメをさされたのか、緑樹は更に大爆笑、三瀬帰は堪えきれず爆笑、何がなにか分かってない寿々音、本当まじでそれどころじゃない青樹と青、痛みがやっと引いてきた寿々。これこそ本当のカオスである!!

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