第6.5夜 ある提案 Ⅲ

なるほど、そういうことか。アルイゼン・バッカーマはインバシオン王国から誘拐されて売り飛ばされこの国にやってきた。表向きはそうだろう。だがよく考えてみろ、誘拐されてきた子供がこれほどまでの権力者にまで上り詰めている。ならばこたえは一つ、


「アルイゼン・バッカーマの誘拐は意図的なものだった、ということか」

「冥朗さんは理解が早くて助かります」

「それで、バッカーマの生い立ちと目的に何の関係がある?」

「そうですね、まずバッカーマ家には貴方と深い関係があります」


バッカーマ家となんの関わりがあったというのか冥朗には全く見当がつかなかった。


「……分かりませんか、こう言ったら分かりますか、実験体527番さん」

「……………………な、ぜ」

「知っているか、ですか?言ったでしょう、認識阻害魔法を使用していたと」

「じゃあ村が燃える前にあった惨殺事件は」

「もちろん僕です」


呼吸が浅くなる。ただでさえ冥朗が実験体だったことは天朗と関係者以外知らないはずであり、その関係者も黒潜たちが来る前に死んでいる、天朗が話すとも思えない。冥朗は混乱していた。


「あぁ天朗さんは話してませんよ。お話ししたのは皆さんです」

「皆さん…………、っ」


息を呑む。何故、何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故、何故。


『お久し振りですね、実験体527番』

『息災で何よりです』


白い実験着を着た同じような顔の少年少女。血色も悪く、その体は透けている。


「あ、ぁ……」

『そんな反応されると悲しいですね、別に527番が生き残ったことを否定はしません』

『貴方が生き残ったことは必然で決まっていた運命さだめです』

「違う、嫌なわけじゃない。君たちには会えて嬉しい、嬉しいけど……」


しどろもどろに言葉を紡ぐ冥朗の姿に朔は驚き、黒潜は口を歪ませる。


『思い出しますか、実験を』

「っ……」

『仕方のないことです、我々は痛みから解放されましたが貴方は違う』

『痛覚があり、感情を会得した』

『過去を思い出して苦しむことは感情を会得した527番、君ならではのものだ』

『我々には一生理解できない領域であり、同時に羨ましいときっと思う』


冥朗の脳内には過去の嫌な記憶がよみがえっていた。強く鋼のような冥朗の心が折れてしまう程に。

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