第6夜 剣術大会 Ⅸ

「さて連行されていった実況くんに変わりまして、私こと芽悪ちゃんが実況を務めさせていただきまーす!」

「五月蝿い、さっさと始めろ」

「あははっ、朔は選手になった時点で口答えする権利なんて無いんだよ、黙ってろ」

「は?」

「あ?」


冷たい空気が闘技場に流れる。


「芽悪ちゃん、ごめんね試合始めてくれる?」

「冥朗先輩が言うなら喜んで~♡」

「ありがとう、芽悪ちゃん」

「ちっ」


朔から舌打ちが聞こえた気がするがスルーする。こんなのいちいち気にしていたら埒が明かないし、指摘しても面倒くさいことになるだけだ。


「それでは絶対的王者の咲真冥朗選手に挑戦するのは、期待の新人と呼ばれている王朔選手ー!!二人とも準備はよろしいですか?」

「うん、いいよ」

「始めてくれ」

「はーい!それでは試合、始め!!」


試合が始まってから気づいたのは相手が怒っているということだった。何故だろう、試合で見た朔よりも一つ一つの攻撃が雑になっている。……今回の試合は正直、負けようと思っている。去年は優勝賞品が名工が作り出した脇差わきざしだったから参加したが、今年は西洋剣なので興味はない。それに僕は化け物らしい。なら化け物は潔く退場するべきだろう。






――✾★✾★✾——






ああ、腹立たしい。こうやって手を抜かれていることも、苦しそうな目をして戦われるのも、何もかもが腹立たしい。冥朗がそれに気が付いたのか、攻撃の頻度を緩める。ほら、まただ。自分が傷ついたのに、他人を傷つけないようにまた退場しようとしている。そんなの許さない、許してたまるか。太刀筋を変えて、冥朗の懐に入り込む。それに驚いたようで、冥朗の動きに隙が生じた。


「君たちは何でそんなにも自分を大事にしないんだ……」


今ならいつも夢で見る男の気持ちが分かるかもしれない。好きな人と結ばれて、幸せになってくれると信じていたのに。結局は自分から殺されてしまうなんて……、そんなの馬鹿げてる。カランカラン、と闘技場に鳴り響く音。ああ……


「俺の負けだ」


こちらを見つめてくる冥朗の目には、強い意志が宿っていた。

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