第6夜 剣術大会 Ⅵ

いつも同じ夢を見る。暗いボーオ村を1人だけで歩いている、そんな夢を。ずっと村の中を歩いていると地面が水のようになり、それに飲み込まれる。その暗い水の中には無数の黒い手があって、僕をもっと深くへと誘っていく。かなり深くへと堕ちていくと、白い空間に長い机1つと椅子2つ置かれている。僕が椅子に座るともう一方には誰かが座る。

『────────◈─◈◈◈◈』

その誰かは僕にいつも話し掛けてくるが、ノイズが走って聴こえない。その誰かは僕と同じ黒髪に、目は金色……いや琥珀色で目の中には白詰草の紋様が入っている。その誰か、彼女はいつも哀しそうにこちらを見ていて、彼女が泣き笑いをすると、泣いている幼い僕が現れる。

『泣くな!お前らに、……僕に泣いて良い資格なんてない!!』

その泣いている幼い僕と視線が交わると目が醒める。とても煩わしい、胸糞が悪い夢だ。ボーオ村の夢を見るのも、泣いている僕を見るのも気分が悪い。僕専用の控え室で目を覚ますと、自分が冷や汗をかいていることに気づく。


「さてさてさぁーて!ついにやって参りましたトップ10の戦い!!なお、初戦は事前に告知した通りに行いますので、そのつもりでお願い致します」


実況役の生徒の声が闘技場全体に響き渡る。そろそろ行くか。眠たいが、重い腰を上げて扉を開く。僕の対戦相手は朔という生徒だったはず……。初戦は僕VS朔くん、青樹VS緑樹、寿々音VS三瀬帰、奇炎VS玲衣くん、水VS水朗皇子だ。最初に見た時は、なんとも言えぬ対戦表だと思った。だが今になると凄く面白い対戦表だと思う。朔くんは戦ったことが無いから、もちろん楽しみである。僕がそれでも1番注目しているのは青樹と緑樹の試合だ。いつかある剣術大会に向けて2人はずっとひたすら特訓していた。その姿が眩しくて、剣術大会を少しだけ心待ちにしていた。……本当に少しだけだ。2人の練習している姿を思い出していると、後ろから近づいてくる気配に気づく。


「今日はよろしく、咲真さん」

「こちらこそ今日はよろしく、朔くん」


笑いながら挨拶をしてくる朔くんは何処か遠くを見ているような気がした。


「俺は朔で良いですよ」

「……ならこれからは朔と呼ぶ、朔も咲真さんじゃなくて冥朗で良いよ。あと普通に敬語も要らない」

「分かった、じゃあ冥朗って呼ぶ事にする」


他愛のない会話をするとお互いに会場の入り口へと向かう。今日が終われば、また任務が待っているのだ、意識を切り替えなければ……。そう自分に言い聞かせながら1人、レンガの廊下を歩いていた。

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