第6夜 剣術大会 Ⅴ

どんどん試合に勝ち進んでいった僕がトップ10に入ることが確定した頃はお昼時で、僕は学園の食堂で昼食を取ることにした。明日からはトップ10の試合が始まる。それまでは体調管理に気をつけろ、と運営の方から御達しがあった。そんなに心配しなくても体調にはいつも気を付けているさ。そんな風に思いながら頼んだ定食を机に置いて席に座る。


「……冥朗か?」


声のした方を振り返ってみると、そこには水朗皇子が定食を持って立っていた。しかも僕と同じオムライスの定食で。


「向かい側、座って良いか?」

「……どちらでも」

「じゃあ失礼して……」


そう言って向かい側にすんなり座る水朗皇子は珍しく水を連れていなかった。今、食堂はトップ10のために貸し切りにされているのだが……。トップ10に入ったのは僕、水朗皇子、水、奇炎、青樹、緑樹、三瀬帰、寿々音、朔くん、玲衣くんだった。……が、この食堂にいるのは僕と水朗皇子、そして朔くんと玲衣くんだけだった。僕以外のいつもの5人は一旦、咲真の屋敷に書類を取りに行っているところだ。それが今回の剣術大会の表彰に関係あるものらしく、先生方に頼まれて取りに行っている。そして何故、僕が咲真の屋敷に帰っていないかというと、大会の途中に右足首を捻ってしまったことが原因だ。足首を捻ったことは上手く隠せていたと思っていたのだが、なんと青樹と緑樹に見破られてしまったのだ。そのお陰で僕は学園に留守番、というわけだ。まぁ休めることは有り難いのだが。というか何故、水朗は話しかけてくるのか。思いっきり挑発した記憶があるのだが……。


「冥朗は試合の方どうだ?」

「勝ち進んでる、今のところ12戦とも全勝。水朗皇子こそ、どうなんです?」

「僕は12戦9勝だ。水は10勝」


まぁ知っていたが。あの水もへらへらしていながらも、かなり手練れである。何故知っているか?それは昔に1回だけ闘ったことがあるからだ。ナイト・アウルとして、義賊として。その太刀筋を覚えられているとは思ってはいなかったが……。恐らくは元汚れ仕事をやっていた身だろう。あの動き方からすると、2、3本短剣を仕込んでいるだろう、もちろん毒が塗ってあるものも含めて。


「そういえば冥朗は何が好きなんだ?」

「何がとは?」

「何でも良いんだ、食べ物でも動物でも」

「………………猫」


1番に思い付いたのが猫だった。村で唯一飼うことを許されていた僕の猫。僕だけの大切な家族の1人。その猫は村が焼かれたときに死んでしまった。もちろん、お墓も用意して弔った。よく僕の猫と行った紫八染むらさきやしおがたくさん咲き誇るあの森の丘に。


「猫……か、そうか」

「何か?」

「あぁ、いや。王宮に猫カフェがあるんだが、剣術大会が終わったら来るか?」

「…………行く」


そんな情報聞いていない。まさか三瀬帰が猫好きな僕に黙っていた?許さん、よし、三瀬帰は帰ったら事情聴取だ。王宮の情報は全て三瀬帰から入ってくるため、黙っていたなら三瀬帰しかいない。つい行く、と言ってしまったが良いのだろうか。まぁ許してくれなくても絶対行こう。猫の楽園に行くぐらい許せ、マジで。そんなことを思いながら、僕はオムライス定食を平らげた。

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