第6夜 剣術大会の裏で

空はあきれるほどの晴天せいてんで、暑すぎて蒸し焼きになるかと思うほどだった。観客席の出入口から闘技場とうぎじょうを見下ろす。


「ねぇさくは今回、誰が優勝すると思う?」

「……去年と同じで咲真家さくまけ冥朗めいろうさんじゃないのか?」

「だよねぇ~、冥朗めいろうちゃんが勝つよねぇ」


まだ試合が始まっていないのにそう言って嬉しそうに笑うみの少女しょうじょ芽悪めあはどこか不気味だった。


「だが今回は分からないぞ。3年には咲真家さくまけ三瀬帰みぜき先輩や寿々音すずね先輩、今年入ってきた咲真さくま青樹せいじゅ緑樹りょくじゅだってかなりの手練てだれだ」

「でも冥朗めいろうちゃんは去年、寿々音すずね先輩に勝ってるし、後輩が勝てるわけもないんじゃない?」


そう自分のことのように話す芽悪めあを、俺は相当いかれてる奴だと思う。だってこいつは、


「おやおやサボりですか?感心かんしんしませんね」


後ろから聞き覚えがある声が聞こえると、その人物じんぶつが自分のあるじだと分かるとひざまづき、こうべれる。


「申し訳ございません、トライアド様」

「えぇ~、少しくらい良いじゃないですか黒潜様こくせさまぁ」

芽悪めあ、ここではトライアドですよ。間違えないように」


われらのあるじ黒潜様こくせさま。幼くして家族を失った俺たちを拾ってくださり、こんなに立派に育ててくれた恩人でもある。


「対象の動きはどうですか?」

「はっ、対象は裏口で取引をするために現在、メンティー学園の廊下Fを移動中でございます」

「なので、対象が人目ひとめにつかない廊下を通るときに処理しょりしようと思いまーす!」

「ふむ、そうですか。くれぐれも1人は残してお話をしてくださいね」

御意ぎょい

「はーい!ちゃんとお話しまーす!」


本当にちゃんと生かしておいてくれると良いのだが……。


「お話した後はどーします?」

「ふむ、生かすも殺すも任せます」


観客席から歓声かんせいが聞こえる。


「それでは第1試合!初戦しょせん昨年度さくねんどの王者、2学年の天才てんさい咲真さくま冥朗めいろうVS《対》3学年の秀才しゅうさい咲真さくま三瀬帰みぜき!!」


開始のアナウンスが聞こえると芽悪めあは顔を明るくして観客席の方へ向かう。


「じゃあさく!今回は頼んだよ!!私はこの試合を観てから行くから!」

「はぁ、お前なぁ」

「まぁ良いじゃないですか。冥朗めいろうさんには私も一目置いちもくおいていますし……、仕事さえしっかりとやってくれれば文句は言いませんよ」

「……分かりました。それでは失礼します」


そう言って、この場を立ち去る。芽悪めあは去年から冥朗めいろうという生徒に夢中むちゅうだ。この前の2学年、剣術大会けんじゅつたいかい予選での実力、あれはまさに天才てんさいと呼ぶにあたいする。俺でさえ勝てるかどうか。


「……はぁ、今は目の前の仕事に集中だな」


対象が来るであろう場所へと移動する。今回の対象は税金ぜいきん横領おうりょうをしている貴族達きぞくたちだ。あぁ反吐へどが出る。……気持ちが悪い。こんなくずどもがのうのうと生きているから、この世の中はくさっていくんだ。今日の仕事が終わればインバシオン王国に潜入任務せんにゅうにんむ。ずっとこんな生活をしているが本当に自分がやっていることが正しいのかよく分からなくなる。


「誰か俺を殺してくれないか、……なんてな」


冗談で言ったその言葉は木霊こだますることもなく、すぐに暗闇くらやみに吸い込まれていった。

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