第6夜 剣術大会 Ⅲ
ついに私は準決勝という形で奇炎と闘うことになった。
「今回、出場が確定しているからといって、手は一切抜くなよ!今回の準決勝は3学年と闘う選手を決めることとなる、それなりの実力がないと病院送りになることもあるから気を抜かずに闘えよ!!」
いや病院送りって、そんな大袈裟な……。いや、去年確か僕が2、3人を病院送りにした記憶が……。
「それでは位置につけ!」
審判役の生徒の合図で現実に意識を引き戻す。普段、奇炎は弓を用いて闘うが剣の扱いが下手、というわけではない。寧ろ剣の扱いの方が上手いのではないかというほどだ。それなのに奇炎は自分から弓を選んだ。僕達からすれば不思議なくらいである。
「よーい!」
いけないいけない、現実の試合に集中しなければ……。奇炎の闘い方は幼い頃から見慣れてきたものではあるが、闘う度に変化をし続けているのだ。それに奇炎は観察力に優れており、少しでも隙を見せるとそれを必ず見逃さずに休む間もなく攻撃を続けてくる。毎回、相手の弱点を見破って攻撃を仕掛けるのが奇炎の得意分野だ。もちろん煽りも効くはずもなく、逆に心理戦は奇炎の得意分野である。
「始め!!」
先生の開始の合図がされたが、僕達は1ミリも動かなかった。その間、晴れているのにも関わらず冷たく重い空気が地を這う。その空気が周りにいる人まで伝わり、そこにいた人はその試合から目を離せなかった。何分ほど動かなかったのだろうか、もう1つの準決勝の方で剣が弾き飛ばされる、とその剣が落ちたのと同時に僕達は動き出した。鉄と鉄がぶつかるって火花が散る。さすが奇炎、攻撃の速さに重さをのせてくるから1つ1つの攻撃が重い!!何度も何度も剣を交える、常人には見えないスピードで、僕らは楽しんでいた。仲間と剣を交える機会など早々無いのだ。ならば楽しむ他あるまい。
「ねぇ、冥朗。」
「……ん」
「楽しいね」
互いの視線が交わる。そっか、……楽しいのか。奇炎の瞳に写る僕は確かに笑っていた。もちろん奇炎自身も笑っていた。遊びを楽しむ無邪気な子供のように。それがどこか懐かしくて、悲しくて、分からなくて、嬉しかった。
「…………うん、そうだね」
何分経っただろうか、あれほど剣を交えてもこの試合は決着がつかない。お互い本気ではないのだが、鍛練以外でこうやって剣を交える機会がないためか、決着を先延ばしにしている。疲れは見せていないものの、そろそろ決着をつけないと先生が五月蝿そうなので決着をつけることとする。
『奇炎どうする?』
『これ以上、時間をかけてしまうと先生が五月蝿そうだし、仕方ないから決めようか』
『分かった』
お互いに一旦、距離をとる。体勢は崩さず、いつでも相手に飛びかかれるように。誰であっただろうか。誰かが何かを落とした音で互いに地を蹴る。
『いざ尋常に、』
『『勝負!!』』
その一撃で勝敗は決した。
「勝者、咲真冥朗!!」
生徒の間から拍手が起こる。最後は奇炎の剣にヒビが入って折れてしまい、僕の勝ちとなった。奇炎は何やら不服そうで、顔には出していないが気に入らないオーラを醸し出している。
「……今日はありがとう、奇炎」
「え?」
「私と闘ってくれて。楽しかった」
「……そっか、うん。こちらこそ、ありがとう」
お互いに握手をする。本当に闘えて良かったと心の底から思う。この頃は悩みというかストレスが貯まっていたので、良いストレス発散になったと僕は思う。まぁ勝ってしまったので、3年生の誰かと当たるんだろうけど。奇炎に勝ったのだから、優勝しなきゃいけないな。そう心に誓った。
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