第6夜 剣術大会 Ⅰ

「本当にあいつって面倒臭い奴だよな」

「……まぁ、そうだね」


僕の目線の先には校庭で剣の稽古授業中の水朗皇子がいる。私達は魔法の歴史について学んでいるところだ。次の授業は2学年全員が合同で剣の稽古授業である。ノートを取りながら先生の話を聞いていると、いつの間にか2限目の終わりのチャイムが学校鳴り響いた。


「行こうか、冥朗」

「うん、そうだね」


素早く更衣室で着替えてから奇炎と合流をする。学校襲撃の件があってからしばらくは2人以上で行動せよ、との学園から通達があったのだ。


「今日は冥朗に勝てるかなー」


へらへらしてそう言う奇炎はどこか子供っぽく、楽しそうだった。校庭に出るともう沢山の生徒が集まり、整列していた。授業の始まりのチャイムが鳴ると皆がピシッと喋るのをやめた。その理由はまぁ、竹刀を持った筋肉質の先生である。こういう先生は説教が始まると長いのだ。


「これから剣の模擬戦を行う!勝ち残った15名は来週の学年対抗、剣術大会に出場してもらう!」


そう先生が告げるとブーイングが起こった。それは何故か、理由は簡単でそもそもの剣術大会の日程を伝えられていなかったことが挙げられる。この学園の剣術大会には多くの来賓が来る。例えば警備会社社長や魔法庁の代表、幅広い偉い人が来る。つまりこの剣術大会は未来の自分のアピール所なのだ。そのため剣術大会に備えて腕を磨く生徒も多い。だが、そもそもの告知がされておらず、選手を今決めるとなれば反発もするだろう。まぁ、もっとも僕達は剣術大会に興味はないのだが……。


「とにかく!だ!これは常日頃、剣の腕を磨いている奴こそが出るべきだと私は思う!だから今回のような処置をとった!これは毎年毎年、ドーピングなどの不正を行っている奴らの出場を防ぐためでもある!」


まぁ、なんやかんやで模擬戦は開かれることになったのだが。初戦は違うクラスの男子で名前を玲衣レイと言ったか。違うクラスのモテ男子であり、自意識過剰な少し面倒臭い奴だ。だが剣の腕については実力は確かで、優雅な剣さばきが評価されている。まぁ負ける気はないけどな。


「おや、冥朗さんだったかな?ふふ、最強と謳われている君と闘えて嬉しいよ。昨年度は優勝おめでとう」

「あ、はい、ありがとうございます」


去年は確か、最後に寿々音と闘って勝っちゃって優勝したんだっけか。そういえばある女の子に告白もされたなぁ、いやぁ懐かしい。あの子、名前は……芽悪メアちゃんだったけな?本当に懐かしい……。


「それでは第一回戦を始める!」


先生のその合図で意識を半強制的に現実世界へ戻す。剣はぶらんと軽く持ち楽な体勢でいる。普通の人だったら、ふざけているように見えるだろう。これは相手を怒らせることも狙いであり、相手が怒ることによって攻撃が単純になるのだ。これは剣術だけでなく、心理戦も含まれているのだ。心理戦に強く頭が回るほど、順位は上がっていくのだ。


「よーい、はじめ!!!」


合図と同時に攻撃してくる玲衣の剣を軽く躱してから少し距離をとる。攻撃を続けてくる玲衣の攻撃を受け流しながら、相手の太刀筋を見る。攻撃の仕方は悪くないんだが、スピード重視のため1つ1つの攻撃に重さがない。剣術大会では1回でも相手に攻撃が当たれば勝利、なのだがお偉いさん達が求めているのは、そういうことではない。スピードも勿論大事なのだが、1番は本当に相手と、敵と対峙したときにいかに使えるか、だ。社会では1回でも相手に攻撃が当たれば勝ち、なんて生ぬるいものではない。それを考えると勿体無いような気もする。それにこの玲衣には踏み込みが足りない、攻撃をすることを躊躇っている。


「……勿体無いことだな」


相手の太刀筋は見切った。分析も終わった。ならば用はない。一旦相手から距離をとってから、踏み込んで加速する。加速したまま、相手の懐に入り込み、剣を相手の剣に当てて武器をなくす。それから脚を引っかけてから転ばせ、喉元に剣を向ける。


「僕の価値だね」


この2人の勝負は約30秒で決まった。


「はは参ったよ、やはり冥朗さんには勝てないね」

「いや、君も稽古をすれば必ず強くなるさ。スピードは悪くなかったけど、攻撃をすることを躊躇っていただろう?」

「おっと、よく分かったね。隠せている自信があったんだけどなぁ」

「君の太刀筋を見ててすぐに分かったよ。もう少し踏み込んでいったり、1つ1つの攻撃に重さをのせられれば、もっと強くなると思う。僕が保証しよう」


そう言って、玲衣に手を差し出す。そして玲衣へ迷わずその手をとった。ちなみに今回の玲衣との模擬戦で冥朗の人気が上がったのは、また別のお話。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る