第5夜 襲撃者 Ⅲ
「だって君達、今話題の"ナイト・アウル"でしょ?」
「……」
もう嗅ぎ付けられていたのか……。ナイト・アウルは僕達の2つ名で、訳すと夜型の人間となる。多分その由来は僕達がたまーに義賊の真似事をしているからだろう。このニージオ帝国には貧しい人や孤児が沢山いる。そんな人達から金品を巻き上げる貴族どもから金品を盗み、貧しい人達に分け与えているのだ。まあ、他の呼び名もあるんだが……。氷のような空気の中、寿々音が口を開く。
「なーに言ってんのよ、水っち!そんなわけないじゃなーい」
「いや、今回の一件で確信した。あの並外れた身体能力……俺は何回かナイト・アウルに会ったことがある。だから分かる。ナイト・アウルはあんた達だ」
寿々音の表情が一変。そして水がこの言葉を発した瞬間、僕らは2人に向かって凶器を構える。
『どーする三瀬帰、バレてるなら処理するのが一番でしょ?』
『……僕も寿々音に同意します』
『そう言ってもなぁ』
『と言いつつも、剣を構えてるじゃないですか三瀬帰』
僕と緑樹は双剣を、奇炎と青樹は弓を、三瀬帰と寿々音は帯剣を。いつでも2人を仕留められるように構える。
「おっと、図星だったようで」
「だから何だ。バレたところで別に消せば良いだけだ、消せば」
「ひえぇ、冥朗ちゃんおっかねぇ」
「……ちょっと良いか」
そう水朗皇子がこの緊迫した空気の中、言葉を発する。この状況で動じないとは、さすが一国の皇子なだけあるな。そう関心しつつ、警戒は怠らない。
「そもそも君達のことはバラす気は無いし、民に危害を加えないなら好きにしてもらって構わない」
「へっ、随分とお優しいことで」
『緑樹、口を挟むな』
『はーい、冥朗の言うことなら従いますよっと』
「君達には協力をしてもらいたいんだ」
「……」
具体的には何の協力か、それによって対応が大分変わる。どっちにしろ信用はできない相手になった。こちらの秘密を少しでも握っている以上、心を許すことは許されない。
「何の協力か、とは自ら聞かないのだな」
「よく考えて話せ。お前らの命は今、俺達が握っている」
「……そうか、分かった。協力してほしいのはある教団についてだ」
……教団?ニージオ帝国は人間だけではなく、色んな種族が集まってくる。人間、獣人、吸血鬼、妖精、魔女、ゴーレム、悪魔、天使など色々だ。まぁ悪魔と天使は稀だが。
話を戻そう、色んな種族がいるということは、宗教や教団も増えることを意味する。主なのは戦の神を信仰する"ラトス"、平和の女神を信仰する"アザリア"、そしてこの星を象徴する女神を信仰する"ルナシー"。この3つに絞られる。恐らくは教団の裏に何かある、ということだろう。
「どこかの教団がインバシオン王国と繋がっているかもしれない」
「はぁ、なんだそんなことか」
「……そんなこと?」
「あぁ、そうだ。戦争を有利にしたいからってスパイを送るのは当然だろう?」
「だが、このままではニージオ帝国の兵力などがバレてしまう可能性も……」
はぁ、と分かりやすいように大きく溜め息をつく。こんなに言っても僕が言いたいことが分からないのか。
「つまりは……だ。民のことを考えているインバシオン王国と、貧富の差を気にせずにのうのうと生きてる貴族達。そんな2つの国だったら僕達はインバシオン王国を選ぶ。ただ、それだけだ」
「……何故だ。じゃあ君達はこの国が滅ぶのをただ待って見ていろと言うのか!」
「あぁ、そうだね!お坊っちゃんにはそれが良い!どうにかしたいなら自分でどうにかしろ。」
少し言い過ぎたかなー、と反省しつつ双剣をしまう。水朗皇子は悔しそう俯く。それで良いのだ。こういう挫折があってこそ、皇子足りうる器になれるのだ。あとは挑発したこいつがどう動くか、だな。
「自分で行動しなければ何も始まらない。あとは自分で考えて行動しろ、忠告はしたからな」
そう言って僕達は修練場から出ていく。これは最後の忠告だ。
「さてと、ぐーたらしますか」
「……その前に襲撃者の黒幕探しだけどね」
「あ、そっか」
みんなで笑いあう。みんなでなら怖くない、そう思った。
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