第17夜 Farewell Ⅱ
「潮時ですかね」
そう言って激闘の末、これはその場から立ち去ろうとする黒潜。黒潜の手の先の背景が歪んだように見える、これは……。
「黒魔術か……」
「ご名答、よく知ってらっしゃいますね」
「知るもなにも、授業で習うだろう?」
「おっと、そうなのですか?すいません、現在の学校の制度については疎いものでして」
「いや嘘に決まってるだろう、黒魔術は国家重要機密に指定されているほどの情報だ。それを扱うお前は王家の使いか?」
黒潜の纏っている魔力が僅かに逆立つ。当たりのようだな。
「さぁ、どうでしょうかね?」
「じゃあ、あんたの主に聞いてみるか?」
「はて?なんのことでしょう」
「いるんだろ、風朗皇子サマ」
「おや、バレていましたか。
「あは、残念でしたね。俺には三瀬という最強の相棒がいるのでね」
「ホッホー(最強ではないがな)」
寿々音達は無事目的地に着いたか……。いや仲間の心配より目先の目標かな。相手は撤退しようとしている、みすみす逃がすという手は無いな。何か収穫が欲しいかな。
「これはこれは風朗皇子、王城に戻ったのではありませんでしたか?」
「気が変わった」
「おやおや困った皇子様ですね」
「「にやにやして気持ち悪いな」」
「「…………」」
「やはり他の奴から見ても、そう思うか」
「いやそう思うしかないでしょう、これは」
黒潜は悪巧みをしているような、無邪気な子供のような、けれども気味が悪い嫌な感じのする顔をする。まさに気持ち悪いという言葉がぴったりと合ってしまうような、そんな顔をする。常人ならば、普通の笑顔だと思うだろう。だが死の魔力の残滓が感じられる者ならば気味が悪くて仕方ない。
「酷いですね、しくしく」
「嘘泣きもやめろ、気持ち悪い」
「まぁ、良いでしょう。さて我々はそろそろお暇させていただきましょうかね」
空間の歪みに入っていく2人を俺はただ傍観していた。何故なら……
「なんのご用ですか、水朗皇子」
「三瀬帰先輩、頼みがあります」
「別にもう先輩ではないので、名前で呼んでもらって構いませんよ。それで頼みとは?」
「……冥朗にこれを届けてほしいんです」
そう言って水朗皇子に差し出されたのは小さな箱だった。
「これは?」
「御守りと手紙です」
三瀬に危険性の含まれる物が無いか探知してもらったが、特に危険性は無さそうだな。
「……分かりました、危険性はないようなので冥朗に渡しておきましょう」
「ありがとう、三瀬帰せ……三瀬帰」
「礼を言われるほどのものでもないですよ、それにここも俺達が滅茶苦茶にしちゃいましたからね」
「いえ遠からず、あった出来事でしょう。仕方がないです」
遠からず……か。俺達が衝動を抑えればこんな犠牲は出なかっただろうに。この優しさが付け狙われる原因でもある、か。
「あまり親しくない者に優しくしないのが念のためですよ」
「そうですね、気を付けます。それでは、お気をつけて……」
「水朗皇子もお気を付けて、あ、そうですね。これは伝えておきましょう」
「はい、なんです?」
「近衛騎士団の
「え、それは……」
「では、失礼します」
地面を一蹴りして、その場を離れる。ここからはあの水朗皇子次第だ。全く、冥朗も面倒くさい伝言を任せてくれるものだ。赤い月の下、俺は山道を走る。目的地に向かって、帰るべき場所を探すため。そうして俺は今日も息をする。
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