第17夜 Farewell Ⅰ

「ったく、何してくれてんねん、くそ兄貴」


そう言うと奇炎近くの空間が歪んだように見えて、くそ兄貴が現れる。


「時雨よ……、お兄ちゃんは悲しいです」

「何言ってんや、気持ち悪い。俺のお気に入りに何してくれてんのや……?」


このときの俺は自分でも驚くくらいの低い声がでたと思う、ほんまに。でもまぁ当然だろう、お気に入りの人間に害をなそうとした……それだけでもう殺してやりたいくらいだ。たとえ兄弟だとしても、な。


「殺意がむき出しになっていますよ、時雨」

「はは、わざとだから気にすんな」

「おやおや、我らが時雨はこんなにも凶暴になってしまったんですね……、お兄ちゃんはとても悲しい、っとっと」

「おっと歓談中失礼、次は当てよう」

「いや歓談中とか目ぇ腐っとるんか、はよ病院行かんとあかんのちゃいます?」


つい本音が……、なんてことは言わない。本音など我々には必要ないのだから。


「あっはは、手厳しいな。おい黒狐、2Mを連れてこの地点まで走れ」


そう言って三瀬帰はんは俺に布切れを投げた。布切れには、ここから2キロメートルほどの地点、インバシオン王国の国境へ行く街道ルートの付近が示されていた。


「はぁ、了解や~」

「あと3Sもな」

「えぇー!なんでよおおぉぉ?!」

「2Kは任せたぞ、3S」


だるそうに返事をした寿々音はんやけど、もう既に奇炎はんはお姫様抱っこされて回収済みなんよな~、敵に回さんでおこ。


「じゃあ3Mはん、くそ兄貴をぼこしてきてくださいよ~」

「まぁ遊んでから合流するとしよう」

「おやおや、そう簡単に逃すとでも?」

「2人とも、2Mと2Kは頼んだぞ」

「任せとき~」

「はーい」


三瀬帰はんならば死にはしないと思うが油断はできない。なにせ我々、黒狐一族は人間ではなく悪魔の一族なのだから。ま、三瀬帰はんも人間やないと思うけどな。そう色々と思考を巡らせながらも、俺はこの場から離れたのであった。



──*★*★*──



「逃がしませんよ」


その場から離脱した時雨達を追おうとした、が、その行動は3Mという男に阻まれた。


「行かせる訳けねぇだろ。それより、なぁ、遊ぼうや」


そう言われた瞬間、ビリビリとした空気が辺りを包む。おやおや、これはやっぱりかなりの手練れですかね。体勢を立て直すために後退するが、それも読み通りのようで相手は休む暇なく攻撃を仕掛けてくる。


三瀬みなせ、リミッター解除」

「ホー!(かましたれ!)」


梟を通しての能力解放、動きの無駄のなさ。素晴らしい、どれだけ探してもこれだけの逸材≪素材≫は見つからない。筋肉のつきかた、一挙一動の動きの無駄の少なさ、このデータを組み込めたらどんな戦闘兵器道具が誕生するだろうか……。あぁ……


「欲しい、なぁ…………」

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