第16夜 Inexplicable Behavior

とても不本意だが、まだ身体から毒が抜けきっていないため仕方なく、ガチマジで仕方なく時雨にお姫様抱っこされている現在。灰色の空からは小雨が降ってきていて、小さな一滴ひとしずくが僕の頬を濡らす。


「いやーご主人様、この時雨くんの乗り心地はどうや?」

「…………最っ悪」

「ありゃま、冥朗はん手厳しいなぁ~」

「喋っている暇があるならスピードをあげるぞ、この狐野郎」

「そうだぞ~!2Mに手を出したら、殺しちゃうぞ?☆」


そう言う寿々音は目が笑っていない、ていうか怖いくらいだ。ていうか協力関係なのではないの、か? そんな疑問も解決しないまま、数十分前にいたであろう現場に到着したわけだが……。


「いや崩壊しすぎやろ」


まさに時雨の言う通りで、咲真家の庭は草木も存在せず、荒れ果て、火を灯しているのみだった。いたのは2K……奇炎だけで、その奇炎も気を失っているようだった。いや、違う……。奇炎の周りには……


「なん、で、血が……」


地に足をつけ奇炎へいる方へと吸い込まれるように進んで行く。呼吸が浅くなる、意識がふわふわする。


「冗談だ、よ……ね」


そうだ、きっと僕をからかおうとしているだけに違いない。そう、そのはずなのに、どうしても嫌な思考は僕の中から消えてくれない。僕は力ある限り、奇炎の方へ手を伸ばした。そう、まるで怪物の胃袋へと吸い込まれていくように。


「冥朗はん!」


たったその一言で意識を強制的に戻され、僕は誰かに抱き抱えられていた。僕にかかる赤い血、チ、ち、血。


「な、なんで、時雨……」

「ほら、屋敷であれほど負傷した仲間には罠が仕掛けられてるって言いましたやろ?」


そう言った時雨は、右目に傷を負っていた。また、まただ。また……。


「僕の、せいで…………」


過去の記憶が一瞬にしてよみがえってくる。莫大なその記憶が、闇を引き連れてきた。現実世界で幼い頃の僕が悲鳴をあげる。


「あ、あ……」

『やだ、やだやだやだやだ、たすけ』


僕たちにしか見えない過去の黒い闇。その黒い手が僕と幼い頃の僕の意識をを闇へと拐っていく。そこで僕の意識はプツン途絶えた。



──*★*★*──



視界に赤い血が滲んでいく。抱き抱えている冥朗ちゃんは先程、何かに怯えながら気を失ってしまった。


「おい狐!大丈夫なのか?!」

「え、右目見える?大丈夫そ?」

「はは、これで大丈夫に見えたならお2人は余程、余裕と見えるなぁ」

「「そうだな/うん」」


まぁそうだろうな、と2人の事は思考放棄。

問題は……。


「ったく、何してくれてんねん、くそ兄貴」

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