第15夜 Pleasant Betrayal

目の前には阿鼻叫喚の地獄が広がっていた。

2Kと呼ばれた怪物が次々と兵士達の四肢を奪っていく。何処からかあいつが連れてきた人形ナニカと2Kが激しい戦闘をしているせいで、二次被害がこちらまで来ている。さっきの黒狐と言ったか、あいつに1人敵が連れ去られてから2Kとかいう奴が暴走し始めた。


「くそ……!トライアドは何処にいる!」


そう叫ぶと、木々の後ろから1つの影が姿を表した。


「御呼びでしょうか、主様」


気味の悪い笑顔を浮かべながらだんだんと近づいてくる。いつ見てもこいつ《トライアド》はよく分からない。トライアドは俺の専属執事でもあり、黒魔術師ネクロマンサーでもある。トライアドは黒髪黒目が特徴的で、女性ほど髪が長く、それらは後ろに結ってある。そして当の本人は一見、動きずらそうな胡服を身に付けている。本当にこの帝国には珍しい外見に服装、出身や生年月日さえ不明。こんな怪しい奴は普通は信用に値しないであろう。だが仕事についてはプロ中のプロであり、その面に関して"は"絶大な信頼を寄せている。


「あいつ、人形と闘っているあいつを殺せ。一欠片も残さないくらいにな」

「おやおや、良いのですか?材料にすればとても良い傀儡が出来そうなものですが……」

「そんなことはどうでも良い、重要なのは喰うか喰われるかだ。まぁ、今回はこちらが捕食者だがな」


そうこぼすとトライアドはくすくすと笑い始めた。


「何がおかしい?」

「いえいえ、ただ面白いな、と思いまして」

「は?」

「だって…………」


そうトライアドが指を指した方向を見る。

目の前には……


「兄サン、タスケ、テ……」


生気がなく、青々とした風朗が立っていた。


「風、朗……?」


そう言った瞬間に俺の首と胴体は一生の別れを告げることとなった。そう、瞬きをする間もなく、炎朗皇子は殺されたのだ。



──*★*★*──



「いやぁ~、お見事ですね。風朗皇子」

「…………」

「見事なまでの躊躇無き制裁、わたくし感服致しました」


そう言ってあるべき主に頭を下げる私は、クツクツと笑っていた。


黒潜こくせ、相変わらず気持ち悪いな」

「おやおや、そう言われてしまうと悲しいですねぇ。しくしく」

「そういうところが気持ち悪いんだよ」


そう言いながらも拒絶をしない、この主を私は気に入っていた。

そろそろ時間だろうか。


「風朗皇子、そろそろお時間です。土朗皇子を回収して王城へお戻りになるべきかと」

水朗あにうえもな、客人のインバシオン王国への招待は任せたぞ」

「はい、心得ております」


あぁ、この風朗皇子はやはり。


「面白いな……」


クツクツとまた笑い出す、それは不気味なくらい目が笑っていなかった。

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